霧が深い朝だった。
数歩先の景色すら曖昧に溶けて、どこまでが道で、どこからが空なのかも分からない。
それでも歩かなければ、と胸の奥で何かが囁く。
昨日までのことなら分かる。
今日すべきことも知っている。
けれど、この先だけはどうしても見えない。目を凝らしても、耳を澄ましても、未来の気配はまったく掴めなかった。
「……どうなるんだろうね、これから」
独りごとが霧に滲む。
怖くもある。でも、その怖さの奥に、微かに灯る熱のようなものがあった。
誰の声でもない、自分の底に沈んでいた小さな願い。
――見えない未来へ、行きたい。
足を一歩、霧へと進めた。
音もなく、景色がほどける。
けれど不思議と、背中を押す手の温度だけははっきり感じられた。
11/22/2025, 5:46:38 AM