“天国と地獄”
数えきれない程の人を手にかけてきた。
手にかけてきた人だけじゃない、その人の周りの人々の幸せだった人生をどれだけ刈り取ってきたのか。
俺にはわからない。
だから、死んだときには間違いなく地獄へ行くのだろう。そしてそれは、俺と同じくらいに人をあやめてきた彼もきっと同じだ。
頭の中に一人の男の後ろ姿が思い浮かぶ。
しゃんとまっすぐ伸びた背中は、身長や体格こそ俺の方が大きいというのに、どうしてかとてつもなく大きく見える。パッと見では性別がわからないほど綺麗な顔に似合わず男前で。そしてついぞ一度も伝えることができないまま別れてしまった、俺の初恋の人。
その端正な顔立ちはきっと幼い頃には天使の様なと耳にタコができるほど言われていただろうに、行き着く先は俺と同じ地獄の底になるのだ。
あの頃、まだ顔を合わせて話ができた頃言葉にはできなかったが俺たちは多分、そうだった。
俺も彼も男で、そしてそこは戦場だった。
言ってしまえば、聞いてしまえばきっと変わってはいけないものが変わってしまいそうで俺たちは結局手の一つも繋がないままだった。
そして今となってはお互いに、お互い以上に守りたいものができていた。
直接顔を合わせることは、きっともう死ぬまでないだろうけど。死んだら地獄の入口ででも彼を待っていようかなと思っている。
生きているうちには伝えられなかったことを言えたら。
触れられなかった手を握りしめられたら。
誰にも何も言われない場所で、ただただ彼のことだけを見つめられたら。彼に見つめてもらえたら。
きっとそこがどんな地獄でも、俺にとっては天国なのだ。
5/27/2024, 2:36:17 PM