『風のいたずら』
それは風のいたずらだった。
ひとつの赤い風船が、風に飛ばされて小さな公園の樹木に引っかかった。
自力ではどうすることもできないので、中に詰められた浮揚ガスがなくなってしぼむまで、自分はここにいるのだろうと思っていた。
するとある日、ひとりの少年が赤い風船を見つけた。
彼は木によじ登ってそれを取り、やさしく話しかけた。
学校へ行くにも、雨の日でも風の日でも、少年は風船と一緒に過ごした。
あまりに仲良くしているので、周囲の人間は次第にヒソヒソと少年を遠巻きにするようになった。
少年を庇いたいのになにも出来ない風船は、ただゆらゆらと不安定に揺れるしかなかった。
そんなある日、いつものように穏やかに公園で過ごしていると、少年の同級生たちがやってきて、石を投げつけた。
咄嗟のことに、風船はふわりと少年の前へ出て、石に当たってパンッと軽い音を立てた。
自分は破裂したのだと、強い衝撃と共に悟った。
まるでスローモーションのように、驚愕した少年の顔がやがて悲しみの色に染まるのを見た。
このまま彼を独りにするのが怖くなった。
この町で、彼は上手くやっていけるだろうか。
もとはといえば、風のいたずらで始まったことだった。
ならば風よ、いま一度。
するとその時、一陣の突風が吹いた。
石を投げつけた子供たちが目を開けると、そこには少年の姿も、破裂した風船の欠片も見当たらなかった。
1/18/2025, 6:40:16 AM