「あなたは24時間後に死にます」
「──は?」
日付の変わった0:01。突然私の部屋に現れた、なんだか神々しい─真白な─天使の羽を纏った女のひとは、憐れむようにそう告げた。
「えっ、な、……なに?」
「あなたは24時間後に死にます」
「いや……え? まず誰? てかなに? 24時間後、って……明日?」
「はい」
「はいじゃなくて……え……天使の幻覚見るとか疲れてんのかな……」
「天使ではありません。神です」
「神様って自称なんだ……」
なんだかもう混乱してしまって、意味のわからない感想さえ漏れる。死ぬ……死ぬってなに? 誰が? ──私が?
「いや……いやいやいやいや。私、まだ19だよ? 明日誕生日だよ? ようやく20歳になるんだよ? まだ酒もタバコも知らないし好きな人とも出会ってないし遊びに行きたいとこたくさんあるし大学卒業してないし……そもそも病気でもなくピンピンしてるし……いや……てかほら、なんだっけ。日本人は無宗教なのに神様出てくるのおかしくない? こんなの夢だって絶対。覚めろ〜私。起きろよ私。……起きなって………!」
「そう──そうして自らの心を守るのもまた、矮小な人間の知恵なのでしょうね。務めは果たしました。これからの24時間をどのように過ごすか、それは自由です。それでは。汝に救いがあらんことを」
無責任なことだけ告げた自称神様は、そうしてサッと消えてしまった。言いたいことも聞きたいことも投げつけたいものもたくさんあったのに、本当に最初から、なんにもなかったみたいに。
「──は」
笑う。声が漏れる。つ、と頬を涙が伝う。
「は、は、──はは、」
ああ、神様。もしもあなたが本当に居るというのなら──死神の間違いだろ、ばーか。
時計は0:08分。残されたのはあと23時間52分。頭の片隅でそれを意識して、心の大半がバカバカしいと嗤うなかで──私は、ただただ泣いていた。自分が死ぬことが怖くて泣いていた。
時計の針だけが、無情に時を進ませ続けている。
7/27/2023, 2:11:34 PM