生まれてから今までの全ての記憶。
その全てを覚えているわけじゃない。
最初の記憶は何なのか。
思い出そうとして思い出せるものなのか。
深くて広い記憶の海は、普段は静かで過ぎていく日々をただ蓄積するだけで。
でも、たまに·····深海魚が打ち上げられるかのように、唐突に過去の記憶が浮上することがある。
浮上してきた記憶は大半が楽しくないもので、そしてその記憶が間違いなんかじゃないのは確実で、私は自分の心が深く沈んでいくのを感じる。
真冬の海ように荒れて、すさんで、暴れる記憶は、いつか暖かな記憶に塗り潰されるのだろうか。
記憶の海は深く、広く、時に私を激しく翻弄する。
沈んだり、浮き上がったり、記憶に翻弄される心はその感情を抱えた新たな記憶を抱いて、やがて忘却していくのだろう。
私が死ぬその時は、楽しかった記憶を思い出しながら、凪の海のような心で逝きたい。
END
「記憶の海」
5/13/2025, 1:34:12 PM