ㅤ下校時間になっても、雨はまだ降り続いていた。
ㅤ水色の傘を差したりっちゃんは、でこぼこしたアスファルトをピョンピョンと跳ねて歩く。私も水たまりを避け、白いスニーカーの底が作る泡を同じ順で踏んで歩く。
ㅤ雨はあまり好きじゃない。私はくせっ毛で、雨降りの朝は湿気を吸った髪がひどく広がった。仕事に出る支度の手を止めた母は、私の頭をギュウギュウ押したり引っ張ったりして、なるたけ手短に髪を縛るのだった。
「雨の日って、あたし好きだな」
ㅤ赤信号の前で、りっちゃんが立ち止まる。
「世界がグレーに沈んでさ、花の色とか綺麗に見えない?」
ㅤりっちゃんの傍で、ピンク色の紫陽花が揺れる。
「そうだね」
ㅤなんとなく話を合わせると、りっちゃんは私の傘の中に身を寄せた。
「恭子のその髪型も好きだし」
ㅤ唇に近づくやわらかな気配。
「傘の中に秘密、隠せるし」
ㅤ胸に触れるりっちゃんの手に手を添えて、私はそっと目を閉じた。
『傘の中の秘密』
6/3/2025, 7:03:01 AM