美しい
「美しい花を見に行こう」
彼はそう言って僕を無理やり外へ連れ出した。
花なんてどこで見ても一緒なんだから、花を見せたいんだったら花屋で買ってきてくれたらいいのに。
「ほら、ここにも花があるじゃん。僕はこれで十分だよ」
玄関を出てすぐ、お母さんがプランターで育てている小さな花を指して言う。
しかし彼は、僕の腕を離さずぎゅっと掴んだまま、前を向いて歩き出した。
「確かにこの花も綺麗だけど、今の君に見てもらわなくちゃいけない景色があるんだよ」
彼の珍しく真剣な横顔に、僕は黙ってついて行くしかなかった。
「うわっ、風強いね」
「この辺は一年中強いんだ。もうすぐ着くよ」
しばらく手を引かれてきたが、あまり馴染みのない場所に来ているようだ。初めて見る景色に、ちょっとだけわくわくした。
「さあ着いた。すごいでしょ、これ」
小高くなっている土手を登ると、そこには辺り一面、ピンクの花が咲き誇っていた。常に吹く強風の中、花弁を揺らしながらそれでも自立して堂々と咲いている。
名前も知らない花だけど、風に吹かれても自分の輝ける場所で根を張り、仲間と共に揺れている様に、心臓を鷲掴みにされた。
「美しいね」
「うん、そうでしょ」
「……もう一度頑張ってみようかな」
「……そっか。応援するよ」
「ありがとう」
親友がここへ連れてきてくれた理由が、なんとなく分かった気がした。
1/16/2024, 4:17:32 PM