ありす。

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どうやら、この世界はつまらないもので溢れているようだ。

「多数決で鬼ごっこに決まったから!」

右向け右が右なように左に向く人は誰もいないように。
赤信号は渡ってはダメなように。
この時間までには家に帰らないといけないように。
手を挙げている人数が多いのならそれに決まるように。

「えー…隠れんぼがよかった…なぁ」

この世界は単純でつまらない。

「先生も言ってた!鬼ごっこしたい人が多ければ鬼ごっこ!だから鬼ごっこに決まったの!」

「隠れんぼ……」

「そんなに言うなら仲間に入らなくていいよーだ!」

俺を置いてこのつまらない世界はそっぽを向いてしまう。
昨日も一昨日も鬼ごっこ。
みんな俺を置いて飽きもせずにまた、鬼ごっこを始めよとジャンケンをしているようだった。

「ねぇ…隠れんぼしたい人いるならさ…隠れ鬼にしたらいいんじゃない?みんなで楽しもうよ?」

「確かに…!」

「鬼ごっこだけも飽きてきたもんね」

鶴の一声とはこの時のようなことを言うのだろう。
名前も知らない男の子の一言で状況は一変した。

「したいことあるなら提案すればいい。自分の気持ち我慢しなくていいだろ?」

つまらなかったこの世界が。
諦めていたはずのこの世界が…向こうから来た瞬間だった。
そして俺と不器用すぎる親友との出会いだった。
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俺と親友は幼なじみだ。
あの日からずっと、今まで隣にいてくれた。

「なぁ!カッパ!カッパ釣りに行こう!」

「いや、パスで」

「なーんでだよっ!テレビでカッパ特集されていたから…カッパが欲しいんだよ!」

「興味無い。パスで」

親友を表す言葉は決まっていた。
不器用なやつ。優しいくせに素直に言えないやつ。

「なぁ、なぁ!好きって10回言ってみ?」

「いやだ」

「なんでだよっ!!俺はちなみに7回目で噛んで寿司って言っちゃった!」

「わー。大変おもしろいねー」

勉強が超できて真面目で…少し鈍感で誰よりも優しいのに。

「さすがだよね。学年1位…家でも勉強ばかりなんだろうね」

「勉強だけの面白くないやつだろ?」

周りからの評価は微妙で、周りを気付かないうちに置いてけぼりにするのはいつもの事。

「ねぇ?俺たちの3年間終わった?部活は?もう行かないの?」

「僕達の3年間は終わった。3年連続一勝も出来ないままな」

「そっか」

人間の寿命は100年になったと言われるこの世界で。
俺と親友の3年間の青春はちょっぴり物足りなかったのかもしれない。
漫画やゲーム、ラノベのような青春はなにひとつ遅れていなかったのだから。
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コンビニで買った熱々のチキンを頬張りながら隣を見れば、何かを考えては溜息をついている親友がいる。
そんな親友を気にせずにチキンを食べていたら不意に親友が口を開いた。

「なんで、同じところ受けたんだよ?」

「よくぞ聞いてくれた!俺らはユスリカだ!ユスリカは光ある場所に集まるもんだろ!」

そう言うと親友は「ゲーム?RPG系?」といつもなら口にしない単語を頑張って口にしていた。
ユスリカは虫なのに。親友の嫌いな虫なのに。
心の底から笑いが込み上げてきたがその笑いを噛み殺して「いや、虫」と言ってやった。

親友は諦めたように視線を下に落とした。
前みたいに叫び出すのを期待した俺はその反応がちょっと寂しかった。

「面接でなんであんな事言ったんだよ?部活なんてそんなにがんばってなかったろ?」

部活と言われても思いつく事は何もない。
ただ、そう思った。思いつきで言っただけなんだ。

それに所詮俺が頑張ったところで凡人は凡人なのだから。
何も期待せずに普通に楽しむくらいでちょうどいいのだ。

「来世で才能に恵まれたら…その時は本気になるよ!」

のらりくらりいつもの調子で言えば親友は意味がわからないと言う表情をしていた。

「じゃ、なんで…」

やっぱり俺の親友は鈍感みたいだ。

「……だから僕が代弁してやった!」

ただ、面接官や周りが気に食わなかった。
嫌な顔を親友に向けるなんて俺は許さない。

「いや、ありえないだろ。普通」

「そんなことないって…それに普通ってなんなんだよ!」

「普通は普通はだよ。常識というのかな」

俺はチキンを全部食べると紙をぐしゃぐしゃにして、さっき買ったコンビニのレジ袋に押し入れる。

あの日よりも10センチ低い親友の身長に時の流れを感じた。俺の方が何センチも低かったはずなのに。

「俺たちはこれからも友達だから」

「あっ。うん。はい。そうですね」

素直になれない親友は恥ずかしそうにしている。
本当に不器用なやつだ。

「だから、無理しなくていい。喋るの得意じゃないのに…面接で喋ってそれで受かってもその後は?絶対にキツいって」

「えっ」

「何年幼なじみしていると思ってるんだよ」

目を丸くしている親友に俺は言う。

「さてと…次は受ける」

「えっ!また一緒のところ受けるの?」

「当たり前だろ!就職とかよく分からないし!」

「はっ…!?本当におかしいだろ…」

俺とこの不器用すぎる親友は幼なじみだ。
それはこの関係はこれからも、ずっとそうなのだろう。
誰よりも、ずっと。

4/9/2024, 12:19:03 PM