ギラギラとした太陽が、容赦なくこちらを照り付けてくる。額や首を何度となく汗が伝い落ち、湿ったTシャツが肌に貼り付いてうざったい。
俺は夏が嫌いだ。
暑いし、蒸せるし、寝苦しいし、いいことなんて何もないくらいに思っている。
「私は夏って好きだよ」
俺のすぐ隣をついてきていた彼女が、そう言って楽しそうに笑った。
「・・・・・・へぇー」
こちらがすごく興味がなさそうな返事をしても、彼女はやはり楽しそうだった。
「ほら夏ってさ、夜もどことなく騒がしい気がするじゃない? そこかしこで生き物がいる気配ががするの。私、あれ好き」
だって、寂しくないもの。
そう締めくくって柔らかに笑った彼女が、ふわりと跳ぶ。
俺はそんな彼女の横で、早くクーラーの効いた室内に入りたいと切に願っていた。俺が無言になったのが気になったのか、彼女が俺の前へと回り込んだ。
「・・・・・・君は本当に変わってるね」
「いや、俺から見れば、夏が好きなお前のほうが変わってると思う」
俺の正面でくるりこちらに反転した彼女と向かい合う。「私にそういう自然な返しをしちゃえることが、すでに変わってるよ」なんて言葉が聞こえたが、俺は暑さのせいで、もはや何かを思考するのも限界だった。
「あ」
そこで俺は、はたと気付く。
「そうだ、お前、ちょっと俺に触れてみろ。この際乗り移ってもいい。お前、幽霊だから体温ないし、俺が涼むにはちょうどいいかもしれん」
こうしている今も、強い日差しと茹でった気温に俺は体力を奪われている。
自分としては何ていいアイデアだろうと思ったうえでの発言だったが、俺の目の前にふわりと浮いていた彼女は「バーカ! 死んじゃえ!」と何とも辛辣な言葉を投げ掛けた後、ぷいっとそっぽを向いた。
【夏】
6/29/2023, 9:28:58 AM