最近の月曜の都内某所、某私有地跡のおはなし。
そこは約10年前、東京の自然を愛した老婆が、生前手をかけていた庭であり、
庭を相続した親族が管理しきれず、持て余し、相続の同年に怪しい不動産屋へ売り払われた土地。
好立地だった庭はすぐ買い手がつき、重機が入り、
コンクリートだのモルタルだのが流し込まれ、
最初は学生向けのシェアハウス、それからインバウンド向けのミニホテルを経て、
いつの間にか、誰とも知れぬ謎の組織の所有物となっておって、付いたウワサが「異世界ホテル」。
特にバズることもなく、ミーム化もせず、
約10年の時の流れで忘れ去られた。
「異世界ホテル」を物悲しい目で、寂しい視線で見つめているのは、享年88歳の老婆の、40〜50歳年下、雪国からの上京者。
生前の老婆の庭を訪問しては、日本固有種咲き誇る老婆の庭を、2人して愛でていた。
今回のお題回収役であるところの上京者は旧姓を附子山、ブシヤマといった。
「私の名字を聞いて、『ウチにも貴重な「ブシ」があるのよ』と笑っていらっしゃった」
職場である図書館は、月曜日が休館・休日。
異世界ホテルの前に立つ附子山を見つけた後輩が、先輩の附子山に近寄り理由を聞くと、
淡々、淡々。 附子山が静かに語った。
「アカバナ エド トリカブト。サンヨウブシの変種で、東京の固有種。毒が無く、赤かった。
この庭にしかもう残っていない花だったそうだ」
美しかったよ。ルビーの赤だった。
当時まだガラケーであった附子山の撮影した画像は、現代の画質からすれば、それほど鮮明ではない。
しかし当時の附子山の感動だけは本物のようで、
撮影枚数の多さが、赤い無毒附子の美しさを、それに出会った際の心を、確実に伝えている。
「絶滅しちゃったの」
附子山の後輩、高葉井が尋ねた。
「おばあさんの言葉が事実なら、そうだ」
高葉井に視線を向けるでもなく、附子山が答えた。
「元々、どこかの神社の白いトリカブトと並んで、『江戸の紅白附子』と言われていたそうだ。
それが何十年も前に数を減らして、『子供が居る場所にトリカブトは危険』と除草されて、
それで、最終的に赤が消えた、らしい」
またいつか。 また、いつか。
附子山が小さな声でお題回収。
必ず、もう一度、咲かせてみせる。
そう続ける附子山の目には、何かの危険な決意が、
小さく、鋭利に光っている。
「先輩、」
不安を感じた高葉井が附子山を呼ぶも、呼ばれた附子山は、高葉井の声に答えない。
ため息ひとつ吐き、踵を返し、去っていく。
「せんぱい?」
またいつか。 また、いつか。
絶滅した花をどうやって復活させるつもりなのか、
附子山は何も説明せず、
当然、高葉井も見当が付かず。
結果、高葉井の頭にはハテナマークだけが残った。
その先の物語については、詳細は明記しない。
それこそ「またいつか」。今後配信されるお題次第。
しゃーない、しゃーない。
7/23/2025, 9:57:33 AM