「一年です」
目の前の彼女に告げた。驚くこともなく、憤慨することなく、ただこの言葉を噛み締めるように俯いた。数年前より痩せ細った身体は、見てて痛々しかった。この先の方針や気休めの言葉を並べることは簡単だ。私には、どうしようが他人事なのだから。彼女は時折小さく頷くだけで、まともな言葉を発さない。 年若い彼女とのこのやり取りはもう十三回に及ぶ。何度も何度も、私は彼女に死を宣告している。言う度に期間は減り続け、彼女はそれにすら気づかない。彼女が口を開いた。
「好きなことをして過ごします、あと一年しかないんだし」
「……それも一つですね」
「先生、わたし、結婚するんです。先生と同じ、お医者さんの人なんですよ」
彼女はそう言って薬指の指輪を見せた。そして嬉しそうに立ち上がり、ゆっくりと診察室を後にする。
私は、愛おしき婚約者にあと何回、死までの時を宣告すればいいのだろう。彼女の指にあった指輪と同じ形の指輪が静かに煌めいた。
題目 『時を告げる』
9/7/2024, 8:24:12 AM