空が白ばんできた午前3時半。
アタシはヨレヨレのスウェットを着ている。
スヤスヤと寝息を立てている息子。
『4時間抱っこして、やっと寝たよ…』
アタシはベランダに出てタバコに火をつけた。
息を吸い、フゥーっと思いっきり吐く。
1口目は肺に入れずにふかすのがアタシの決まり。
寝た方がいいのは分かっているが、ひと仕事終えた後のタバコがたまらなく好きだ。
『夜泣き、今日も凄かったな。』
アタシは所謂できちゃった婚だ。
それも、不倫の末の略奪婚だった。
両親はもちろん大反対し、結婚するなら勘当だと言われた。
売り言葉に買い言葉、アタシはカバンひとつでお腹をさすりながら家を飛び出して行った。
不倫だったが、付き合っていた時はまだ良かった。
彼はとても優しくて、容姿も文句なし。清潔感のある爽やかなイケメンだった。
隣を歩いているだけでアタシは何だか誇らしくなった。
スヤスヤ眠る息子は本当に、可愛い。
いつもその横でイビキをかいている旦那をチラリと見て、嫌悪感を抱いていた。
『アナタの子なのに…』
――旦那はお腹の中の子が男の子だと分かると、明らかに落胆していた。
それに立ち会いができないご時世だからか、父親になったという自覚が全くと言っていいほど無い。
「うわあ!ほんとサルだな!」
ハハハと大きな声で笑っていた。
第一声のそれを聞いた瞬間サーっと冷めた。
旦那は変わってしまった。いや、元々そういう男だったのかもしれない。
清潔感はどこへやら。
シワひとつ無かったワイシャツはシワだらけでも気にしない。
マスクが当たり前になった時代だからか、歯も磨かない日もある。
アイロンに関してはアタシがすればいいだけかもしれないが、子育てワンオペの現状、そんな余裕は無い。
―――旦那の元嫁には1度だけ会ったことがある。
旦那と元嫁の離婚に関して、慰謝料やらなんやらで弁護士事務所に行った時だ。
サラサラのショートヘア、黒髪で、スタイルも良く、泣いたのか、少し腫れぼったいタレ目と話した時にチラリと見える八重歯が印象的だった。
略奪しておきながらも『なんでこんな可愛い嫁がいるのに』と思ってしまったほどだった。
『アタシもいつか、浮気されるのかな。』
正直どうでも良かった。息子さえいればいい。
チリッとタバコが焼ける音がした。
夜明け前の少し冷たい風に、ゆらゆらと流されるままのタバコの煙を見て『アタシみたい。』と思った。
流されるままに生きてきた。不倫し、妊娠した上の略奪婚。
世間から煙たがられ、いつかは消えていくのだろう。
「ほんと、全部アタシたちが招いたこと。……ばかみたい。」
アタシの夜が明けることはないだろう。
今、願わくば、【夜明け前】が続いて欲しい。
もうすぐ明けると希望を抱きたい。
登ってきた朝日を見ながら消えていく煙になりたい。
第2話 【夜明け前】~完~
自分にはこの先明るい未来は無いと分かっているのですね。
不倫はよくない!ダメ絶対!
初見でもなるべく分かるように、お題に沿った短編形式にしてます。
第1話と続いているので良ければぜひそちらも見て下さいm(_ _)m
♡︎ありがとうございます。またあなたの目に止まりますように。
9/13/2022, 12:15:09 PM