幼馴染みのマイちゃんは、時々変わったことをする。みんなで遊んでる時、急にその場に座り込んだり、おしゃべりしてると思ったらどこか遠い方向をじっと見つめていたりする。優しくて大人しい子なんだけど、他の子はそんなマイちゃんの奇妙な行動に不信がって最近じゃあまり遊びに誘わない。
ナナミもあんま関わらないほうがいいよ、と、いつも一緒にいるグループの1人の子に言われた。みんなそうやって次第にマイちゃんから距離を置くようになった。私はというと、すすんで離れたり無視をするようなことはしなかった。だって私たちは幼馴染みだし、お母さん同士も仲が良いから。たとえ離れたいと思っても、そういう事情があるから無闇に変な行動に移せないのだ。
そう、私だって本当はマイちゃんから距離を置きたいと思っている。近頃の彼女の行動は更に過激さを増している。帰り道、急に立ち止まってぶつぶつ何かを言い出したり、信号待ちしている交差点で向かい側にいる男の人を指差して「あの人は明後日死んじゃう」と私に言ってきたりするのだ。気味が悪いどころじゃなかった。人が死ぬ、とか簡単に言えてしまうマイちゃんに私は嫌悪感を抱くようになった。知らず知らずのうちに、私は彼女のことを嫌なものを見るような目で見つめていた。
でも、そんなふうになってもまだ一緒に帰っている。学校から家までほとんど同じ方向。最後に曲がる道が違うだけ。そこまでは、とにかく我慢して、マイちゃんを居ないものだと考えるようにして歩くのだった。けっこう速足で歩く私に、マイちゃんは一生懸命ついてくる。意地悪をしたいんじゃなくて、一刻も早く帰りたいのだ。そんな私の胸の内を知ってか知らずか、「ナナミ待って」と、呼び止めてきた。振り向くとマイちゃんがのんびりとした速度で歩いてくる。おいてかれたくないのなら少しは急いでよ。
「……マイちゃん私、今日早く帰りたいんだ。悪いけど先行くね」
「だめ、待って」
「なんで――」
そんなワガママ言うの。いよいよ頭にきてそう叫ぼうとした時、右から左に物凄い勢いでダンプカーが走り去った。ここは一時停止標識がある道路なのに、そんな気配はつゆほども見せず猛スピードで行ってしまった。もし、あのまま道を横断していたら。私は間違いなく今のダンプカーに轢かれていた。
「ね?言ったでしょ」
にこりと微笑んでマイちゃんが言った。私は何も声が出なかった。どうして分かったの。聞きたいのに、何かがぞくりと背中に走る感覚を覚えた。夕陽を背負ったマイちゃんが口を綺麗に弓なりに曲げる。黄昏時は、みんな自然と死に吸い寄せられちゃうのよ、と。わけの分からない解説をしてくれたけど、私の耳には全く入ってこなかった。理解できるのは、今の夕日が痛いくらいに眩しいということだけだった。
10/2/2023, 4:58:12 AM