10年後の私から届いた手紙
“誰からも好かれる人間がいい。”
ふと、だいぶ昔に使っていたSNSのアカウントを消していなかったことを思い出しログインすると、一番にその言葉が目に飛び込んだ。
短く綴られていたそれは、昔の私が打ち込んだものだった。
鍵をつけて日記代わりにしていたから、これは誰でもない自分自身に向けたものだと分かる。
頭の片隅で、黒く煤けた記憶が這いずってくるのが分かった。私は、深呼吸して思いっきり息を吐き出す。それと一緒に煤がサラサラどこかヘ消えていく様が浮かぶ。
「……誰からもは無理よ」
昔の自分に諭すようにそんな言葉を呟いた。
私は前より少しだけ変わった入力欄に文字を打ち込み、そのままログアウトした。消すのは一旦保留にしておこう。また何年後かの私の意見が気になるから。
「もしかしたら真逆の事言われるかもね」
スマホを机に置いて部屋の窓を開ける。暖かい風が桜の花びらを纏わせながら入ってきた。
――また季節が巡っていく。そして、私の価値観はきっとこれからも変わっていくのだろう。
“案外、みんな自分勝手だよ。だからちょっとでいいから自分を出して生きてみて。”
日々家
2/15/2024, 11:53:33 AM