Morris

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私とベスタは、瓦礫を背に座っていた。
敵の足止めと殲滅に成功したものの、互いに力尽きてしまった。

「へラグ様、星空が綺麗ですよ」

彼女につられて空を見上げると、星の連なりや夜空の裂け目が浮かんでいた。
雨上がりの寒々しくも澄み切った空気は、美しさに磨きをかけている。

「それにしても寒さが堪えるな。もっと近くに来てくれないか?」
「わかりました……え、えっと」

彼女を太ももに座らせ、肩を抱く。
隣に座ったり、手を繋いだりすることはあったが、彼女の想いや子どもたちの手前、なかなか大胆に密着することはなかった。だからだろう、耳まで赤くして、彼女は何も言わなくなってしまった。

「ベスタ」

返事はない。

「戻ってきてほしくなかったが、心のどこかで貴女を求めていたんだ」

己の分まで生きていてほしかった、最期はその手で逝きたかった、と相反する願いが渦巻く。
どちらにせよ、彼女を愛していることには変わりがない。それだけは伝えたかった。

「へラグ様、私も同じ気持ちです」
「ふむ……」

彼女の手が頬に添えられた。手袋越しでも心地よい温かさが伝わってくる。
柄にもなく擦り寄ってみたり、自分の手を重ねてみたりする。
反応が気になって、彼女の方を見ると、どこか切羽詰まったような顔をしていた。

「どうした?」
「私のわがままを聞いてほしいのです」
「あぁ、良いぞ」
「へラグ様なら、そう言ってくださると信じていました」

そう言って、首に腕を回してきた。今度は彼女が擦り寄る側になった。
彼女の鼓動が鮮明に聞こえる。

「目は閉じておこう。好きにして構わない」

視覚が無くなった分、聴覚が鋭くなる。風の音に紛れて、彼女の息遣いが聞こえる。
深い息の後に、柔らかい物が優しく押し当てられた。
予想はしていたが、いざ本当にやられると、感情が隠せなくなる。

「え、あ、へラグ様……」

離れる前に目を開けた。
ちょっとした悪戯のつもりだったが、言葉を発さなくなる程度には効いている。


お題
「空模様」「さよならを言う前に」

※未完

8/21/2023, 9:44:35 AM