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レモは、SNSの投稿を読んで、ため息を

ついた。

もう、俺に集るのはよしてくれ。

もう、俺、終わった人なのによ。

もう、アスリートとしては、引退したわけ。

あの筋書きのないドラマ、伝説のシーンの

ように空を舞うことはできない。

彼自身がよく分かっていた。

今までの肩書きは残るわけだか、

実際は、普通のサラリーマンに近い。

だから、普通にコンビニやスーパーで

買い物へも時期行けるようになる。

そう、思っていた。

だから、SNSで結婚の報告をしたときも、

ここまでの騒ぎになったことに驚きと失望を

感じた。

どうしたものだろうか?

このまま、今までのレモのイメージを

大切に守っていくべきか、

それとももっと素の自分を出していこうか。

食べかけのカップ麺はすでに伸びきって、

シャチホコばって、ぐったりとしていた。

レモンは、破れたパンツに指を入れ、

尻を掻いた。

思えば、小学生の低学年くらいまでは、

氷滑りが好きなだけのただの男の子だった。

氷滑りをしているとき以外は、

家でゲームをし、大好きなチョコを食べ、

脱いだ靴下はそこら中に置きっぱで、

よく母に叱られた。

それが、いつからだろうか。

漫画やアニメのキャラ、ひどいときは、

神格化された神のようにみられるようになっ

たのは。

最初、そんなふうにみられる彼自身を人ごとの

ように遠くの空を眺めているだけだった。

それが、テレビやラジオ、インターネットで

自分のことが取り上げる映像をみるにつけ、

半ば無意識に自ら、どんどんと舞台の台本

を読み、演出するようかのようになった。

見えない脚本家は、その都度、微妙に

趣向をかえ、半ば、強制的に彼自身を

動かす。そんな感じに近いかもしれない。

あの伝説の世界大会の試合でさえ、

かなりの虚気の演出が施されていた。

実のところ、テレビなどの報道にあった

足の怪我は数ヶ月前に完治していた。

それは、自分は一番分かっているはずだった。

だが、彼は意図的に欺いているのでは

なかった。全てがホンキのホンキだった。

そうでなかったら、簡単にこのウソは

見破られていただろう。

だか、誰も気づくものはいなかった。

その理由として、考えらるのは、

この時、彼は現実の世界の人間として

振る舞っていなかった。

もう一つは、彼を取り囲む空気、全体が

それを無意識に望んでいたことにあった。

そういった状況のなか、彼は、

一つのドラマ、神話をつくっていった。

彼は、いわば、1人の俳優、もしくは、漫画の

2次元キャラとそのものであった。

彼自身が無意識に誰かが求めているだろう、

筋書きを自分の舞台の演出として、

取り込んだ。

その結果があの試合の結末というわけである。

しかし、あれが、彼の盛りであった。

これから、少しずつ、萎びて、枯れていく。

周りも去って、華やかさや

輝きをどんどんと失っていく。

それは、エンディングがないドラマが

存在しないことからも明らかでだった。

もちろん、続編があるものもあるが‥。

とっ、彼のスマホがなった。

まさに妻となったばかりのマトリュからだ。

マトリュは、日本人ではない。

彼と同じ競技の彼女の国のトップ選手である。

だが、彼女の国は、日本とは違い、

世界大会で優勝するような選手は、

最重要の国賓扱いとなっているのだ。

そして、彼らの持つ力は、国を動かすことも

あるらしい。

以前、プロポーズをした夜に、

結婚後、彼女の国の一つの島をもらい、

2人で新しい国をつくりたい。

そんな、夢を本気で語ったこともあった。

住民は、全て、丸腰、丸裸で過ごす。

下着ももちろんつけない。

電気も通さない。

名前さえ使わない。

人類の最初である。

あるのは、それ自体。  

ギーっ、ピーぇ、プルぅーワ、ババっ。

今、レモは、蜘蛛の巣だらけのカビ臭い

部屋の布団の上で、涎を垂らして、目

を閉じている。

ビェーャヤ、ビェーヨ、ヨブバェージャャ

レモの頭のあたりは薄暗い部屋の中で、赤く、

青く、点滅を繰り返している。

その頭には、メタリックな蜂の巣型のヘル

メットを乗せてあるのだった。

8/16/2023, 12:56:50 AM