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「なーに、見てんのっ」

ドアの方へ目をやると、ぴょこぴょこと効果音がつきそうな足取りであいつが入ってきた。
その手には大きめのトートバッグと小ぶりな紙袋が提げられている。

「別に、なんも。」

視線を窓へ戻して素っ気なく答えると、またまたぁと笑いながらトートバッグの中身をチェストへとしまっていく。
それが終わると紙袋を持ってベッド脇の椅子に腰を降ろした。
さして座り心地の良くないその椅子に、どうしてこんなにも座りにくるのか。
撮影に練習に、お前は俺と違って暇じゃないだろうに。俺なんかに時間を使ってる場合じゃないだろう。
でもそれを言うと怒るから、俺はただ空を見つめていた。

「カーテン、開けてもらったの?」
「うん。」
「なんで?眩しいって言っていつも開けないじゃん。」
「……気分。」

爽やかな朝の日差しも、さんさんと照らす昼の日差しも、ポツポツと灯る夜の暖かな光も、どれも俺には眩しすぎる。だから、カーテンは開けない。俺の世界はこの真っ白な部屋だけでいい。
ただ、この窓からこいつの姿が見えるんじゃないかなんて思い立って開けてみたのだ。
結局見えなかったけど。

珍しく開いているから気になるのか、さっきからじっと窓の向こうを見つめている。
そして泣きそうな笑顔で「夕焼け、きれいだね。」と呟いた。

「なんで、泣きそうなん。」

言葉が少しつっかえる。

「いやぁ、綺麗だなと思いまして。」

おどけた口調で言ってるけど、やっぱり泣きそうな顔をしている。
この場面で泣くのはどっちかというと俺やろ。と心の中でツッコんだ。

「なぁ、」

何気なく呼んだ名前。こちらに向けられる双眸。
そこに反射する光がひどく綺麗で、手を伸ばす。
中途半端に伸ばされた手をしっかりと握ってくれた。
あぁ、俺はこの目を

「後、何回見れるんやろ。」

気づいたら声に出ていた。
違う。こんな事言うつもりなかったのに。
こいつの表情に引っ張られた。
今更何を思おうと、結末は変わらないのに。

「何回だって、見れるよ。見せてあげるから、」

オレンジ色の雫が、俺の手の甲に落ちた。

(2 たそがれ)

10/1/2023, 11:34:01 PM