「あーあ。わたし、心配だなぁ」
私の幼馴染が、いたずらっぽい声色で言った。
自転車を押しながら歩く彼女の大人びた横顔が、沈む夕日に照らされて、燃えるようなオレンジ色に染まっていた。
「わたしがいなくなっても、ちゃんとひとりでおうちに帰れる?」
「なっ?! あ、当たり前でしょ! もう中学二年生だよ? 小学生の時とは違うんだから」
彼女は、私の憧れだ。
同い年なのに私なんかよりずっとずっと大人っぽくて、面倒見の良さから慕われているみんなのお姉さん。
身長だってすらりと高くて、私と同じセーラー服を着ていても全然印象が違って見える。
私の反論を聞いた幼馴染は、ほっとしたようにくすくす笑った。
「……そうだよね。よかった」
彼女はまもなくこの町を出ていく。
よくある『家庭の事情』のせいだ。
『あの子なら、どこでもやっていけるよ』
信頼から、みんな口々にそう言った。
「……会いに行くよ」
ずっと前を向いていた彼女が、こちらを向いた。
「ひとりで帰れるけど、あなたがいないと、私がさみしい」
「……うん」
幼馴染の笑顔が、沈む夕日に照らされて綺麗だった。
『沈む夕日』
4/8/2024, 4:25:29 AM