猫背の犬

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「僕はただ君とって特別な夜をあげたかっただけなんだ」
朝になったらいろいろ面倒なことになって、たぶんこいつと俺はもう一緒に居られなくなる。
俺もこいつもこの街に住んでいけなくなることはおろか、自分を証明する類のすべてをドブに沈めなくてはいけない。
「あーあ、これで来世でも一緒になれないの決定だな」
「なんで」
「こんな悪いことした奴らを引き合わせる神様なんて、絶対に居ないからだよ」
木造の家が炎に飲まれていく焦げ臭さと、徐々に近づいてくるサイレンの音はどのような形態で生まれ変わったとしても、既存の記憶として刻まれていることだろう。
「間違えた間違えた間違えた間違えた間違えた間違えた……僕は、僕はただ特別な……」
夕焼けの色に似た炎の光で照らされた絶望と悲愴に満ちた顔が見れたことが、確かに特別な夜だったのかもしれないと麻痺した脳が思い込む。
「お前は忘れていいよ、俺が忘れないから」
「——っ!」
錯乱した人間の頭をスコップでぶっ叩くって意外と興奮するなんて今日まで知らなかった。
偽造工作にしては荒すぎるかもしれないけど、もう時間がないからこれに関しての罰は、あとからまとめて受ける所存。
痙攣してる体に記憶を真っ白に染めてしまう薬剤を打ち込めば晴れて記憶喪失となり、こいつは一連の被害者で可哀想な青年として明日から扱われることになる。
「はなから二人で居ることなんて許されなかったし、お互いの心の真ん中に鎮座できる方法がこれしかなかったんだよ、ごめんな。まあ、お前は真っさらになっちゃったけどね」
普遍的な「特別な夜」では物足りない俺たちにはこれくらいの地獄がちょうどよかったんだ。
二人同時に耐え難い罰を受けて、いつか骨になって、灰になったときに落ち合える未来に繋がるこの夜こそが特別なんだ。
「——だから、お前は間違えてなんかないよ。ありがとうな」
これから一人きりになって全く知らない朝がやってきても、この特別な夜を忘れない。お前が忘れても、俺がずっと憶えてるから。

1/21/2026, 1:02:05 PM