(お前の、ことが、嫌いだ)
心の中で彼にそう言う。
物腰の柔らかい、穏やかな表情や口調で彼は私の隣の男性と接している。
彼はあまりにも綺麗な顔をしていて、知的な声をしていて、少し間違えば、簡単に皆、彼に堕ちてしまう。
「待たせてしまって、ごめんね、終わったよ」
「行こうか」
そして私に微笑んで声をかける。
彼は、きっと裏表がないのだろう。
こんな身分の違う私に、誠実に優しく接する。
「……はい」
その背に、ついていく。
「…っと、あれ、…あれ?ごめん、さっきの資料どこにやったっけ…?」
「……先程、ジャケットの左ポケットに折りたたんで入れていたところをお見かけしました」
「あっ……ははは、うっかりしてた。ありがとう。参ったな…しっかりしないと…」
そう言って、少し落ち込んだみたいに俯く。俯いた時、落ちた睫毛の影があまりに綺麗だった。
そして、気を取り直したように、私の目を見た。
「君がいるから僕は周りの人からとても評価してもらえる。君のおかげだよ。ありがとう」
そして、柔らかく、真っ直ぐに彼は笑った。
この人の瞳に、声に、笑顔に、いちばん夢中になっているのは誰だろう。
この人がいつか許嫁と結ばれることを、1番苦痛に感じているのは誰だろう。
彼が前を向いたあと、ぎゅ、とめをつむる。
嫌いだ。
きらい。
お前のこと。
いつか違う人と結ばれるお前のこと。
身分不相応な思いを抱いている自分のこと。
お前なんて、嫌いだ…
1/9/2026, 4:48:38 PM