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何でだろな、何でこうなってしまったのだろう。太樹はマンションの屋上に立っていた。もっと違う道はなかったのか、何度も考えた。しかし何回やってもこうするしかなかった、仕方なかったと自分を肯定する。ありがとうお母さんそしてごめん。

パチン、スーツ姿の父が母を躊躇なくビンタした。母は頬を抑えながら机に手をついた。今日はいつもより機嫌が悪い。

「何度言ったらわかるんだよ。ビールは絶対切らすなって言ってるだろ」

「それは分かってますけど、あなたお医者さんに控えるように言われてるじゃない」

「だからなんだよ、こっちは長時間の仕事で疲れてんだよ、酒ぐらい飲ませてくれよ」

「そんなこと言われても今日は無いので我慢してください」


太樹の父はもともと温厚な性格の人だった。いつも優しく微笑んだ顔が太樹は好きだった。変わったのは太樹が中学に入った時からだ。子供の時からサッカーをしていた太樹は私立の名門中学を志望していた。推薦で入りたかったが何とか勉強で合格することができた。しかし問題は学費だった。私立は他の学校よりもちろん学費が高い。太樹はそれに加えてサッカー部に所属しているからユニフォーム代など用具代、遠征費なども合わせると今までの父の収入では足りなかった。そこで父は本業に寝る間も惜しんで色々なアルバイトを掛け持ちして働いた。朝、太樹が寝てる間に家を出て夜遅くに帰ってくるのが日常なった。毎日クタクタになって帰ってきて父の顔はだんだん無になったいった。


そんなある日、父が珍しく大気に話しかけてきた。

「太樹、最近サッカーの調子ばどうだ」

「頑張ってるけどなかなか上手くいかないよ、まだDチームだよ」

「な、Dチームだと、太樹お前、父さんがどれだけ苦労して稼いでるか知らないのか。お前が強豪でレギュラーになると言うから入学を認めてやったのに」

父は持っていたビール缶を机に叩きつけながら言った。

「そんなこと言ったってまだ一年なんですから、そんなすぐにレギュラーなんて」

母が庇うように言う。

「太樹三年間でレギュラーなれなかったらこの学費全部働いて返せよ」

「え、そんなのおかしいじゃん」

太樹はさすがに腹が立って、ソファから立って父の方まで寄った。

「口答えするな!」

怒鳴るのと同時に父に胸ぐらを掴まれた。その瞬間、顔の右側が熱くなるのを感じた。殴られたのだ。


「お父さん!なんて事するの、殴るなら私を殴って」

お母さんが急いで駆け寄ってきた。

パァン!

それから父はイライラすると暴力的な人になり母を殴るのが日常になった。お母さんの顔には痣が増えていった。お母さんはそれでも大丈夫だから太樹は心配しないでと言う。


俺のせいだ、俺のせいでこの家族は変容した。


太樹は頑張ってくれてる家族のためにも部活で結果を出そうとした。だがさすが名門だけあって練習は厳しくついていくだけで必死だった。2年になり後輩が多く入ってきた。チーム編成も変わり同級生の多くは上のカテゴリーに上がっていったが太樹は一年経っても苦しんでいた。そのうちどんどん後輩が太樹の一年間が無意味だったかのように昇格していく。太樹は燃え尽きた。頑張っても無理だ。自分は選ばれた人間じゃないんだ。部活に行くのが憂鬱になりサボるようになった。適当に遊んで時間を潰す。家に帰ると母が父に泣かされている。


何だこれ。俺っている意味あんの?俺がいない方が幸せだったんじゃない?辞めたやめた。

今までありがとうお母さん、ごめんね。




12/8/2024, 2:31:09 PM