風景
小学校の創立記念で、みんなで風船を飛ばすことになった。前日、風船につける花の種と手紙が配られた。手紙は宿題になった。
僕は、先生が例として挙げた自己紹介や、花の種を植えてくださいという、拾った人へのお願いではなく、ただ一行URLを書いた。
URLは一文字でも間違えたら表示されないんだ。だから何度も写し間違いがないか確認してから封をした。花の種のほうは庭にばらまいて、袋は捨てた。
次の日の創立記念式典のあと、生徒全員が校庭に出て、先生の合図のもと、いっせいに風船を飛ばした。
青い空に向かって、たくさんのカラフルな風船がのぼっていく。とてもきれいだった。僕は写真に撮っておきたかったけど、学校にカメラを持ってきてはいけないんだ。
強い風が吹いていた。風船が山の向こうに流されて見えなくなるまで、みんなで空を見上げていた。
僕は家に帰って来ると、パソコンを立ち上げて、手紙に書いたURLを開いた。
すぐにたくさんの写真が画面に表示された。
川沿いの桜。雪につけた足跡。公園の遊具。池の鴨。夕焼けの空。釣りをした川。庭に咲いた薔薇。
僕が撮った風景写真だ。
低学年のとき、父さんからカメラの使い方を教わった。僕は写真が好きになって、父さんと一緒に出かけた先でいろんなものを撮影した。僕が父さんを撮り、父さんが僕を撮った。
画面の写真には、人物はひとりも写ってない。
僕は誰かを撮ることをやめてしまったんだ。本当ならこの風景のどこかに、父さんと僕が笑って写っているはずなんだって、そんなふうに思うから。
風船につけた手紙が父さんに届くと思うほど、僕は子どもじゃない。わかっているんだ。大人たちの話をつなぎ合わせれば、父さんはたぶんもう、生きてはいないんだろうって。
数週間後、種をばらまいたところから、芽が出ているのを見つけた。僕はそれを写真に収めた。
4/12/2025, 3:23:38 PM