世界はモノクロだ。
極彩色に彩られようとも嘘が混じれば、虚飾でしかない
うだるような暑さは、夜でも続く。
だが、ここの熱気は四季を通して、冷めることは無い。
ここは東京都新宿区歌舞伎町。
ネオンがギラつく不夜城。
見栄と虚飾と欲望に彩られた町。
そのハズレの雑居ビルにテナントを構えるガールズバー。
そこは、社会の鬱憤を晴らす癒しの場と言えよう。
僕はいつもと違う道を通って残業終わりの帰路に着く。
ただ、なんとなく酒が飲みたかった。
大衆居酒屋でも、キャバクラでもなく、
ガールズバーがいいと心が叫ぶ。
さらに、行ったことのない場所なら尚良いと。
蛍光色のネオンが照らす歌舞伎町。
だと言うのに、僕の目にはモノクロにしか映らない。煌々と輝く看板が目に入る。
『BAR Liberia』
バーもいいなと思い、雑居ビルの3階に足を進めた。
「いらっしゃいませ、おひとり様ですか?」
スーツを纏った一回り近く年下のバウンサーが声をかける。
小さく私は頷き、店内に案内される。一通りの説明を受け席に着いた。
色彩に彩られたのは、看板だけで内装も人もモノクロであった。
嘘にまみれていると、分かってしまう。
はぁ......とため息をついたが結果は変わらないので酒を飲む。
なにか変わればいいと、心の中の何かが変わればいいと足を運んだが
そんな事はそうそうないのだと、さらに酒を煽る。
「お......さん、お兄さん!なんだかつまらそうにしてますね!」
派手な赤い髪に青いドレス、緑の瞳が際立つ女の子が目の前にいた。
客は僕しかいないようで、暇なのか声をかけてきたみたいだ。
「あれ?私の顔、何か変ですか?もしかして、メイクとかへんですか!?」
色がある彼女が珍しく凝視していたらしい......
「......そんなことはない、とても色鮮やかで綺麗だ」
心から漏れ出す、感想。
「えへへ、ありがとうごさいます!一昨日染めたばかりなのでまだまだ綺麗ですよ!褒めて貰えて嬉しいです」
コロコロと変わる表情と声に僕は少しづつ惹かれてしまう。
「グラス、空いてますよ!次は何にしますか?同じのにします?」
「......オススメをお願いしようかな、任せるよ。」
「了解です!取っておきの美味しいやつ作りますね!」
虚飾の中にも真実はある。
モノクロの中だからこそ輝く色彩。
疲弊した心がほんの少しだけ癒されるようなそんな気がした。
これでいい、このくらいでいい。
9/10/2025, 1:39:40 PM