久住弥生

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エレナはカーテンを開けた。
四角い枠に切り取られた夕暮れの空。
静かだった。耳を澄ましても、鈴の音は聞こえない。

母は、手先も、感情表現も不器用な人だった。
家に篭りきりのエレナが、絵本で見たサンタクロースについて、母に尋ねたことがあった。
その年のクリスマスに、一度だけ、エレナはプレゼントをねだった。
「おともだちがほしいの」
母は、深くため息をついて、「そう」と、つぶやいた。

翌朝、枕元に置いてあったのが、手作りのぬいぐるみだった。
フェルトの四角い胴体に顔と手足がついたもので、何を模して作ったものかはさっぱり検討がつかなかった。
歪な形をしていて自立せず、すぐにころんと倒れるので、エレナはそれに「コロロ」と名前をつけた。
母は、「サンタさんが置いて行ったのよ」と言っていた。

1人きりの部屋から見えるのは、満点の星空。
目を凝らしてみるが、そりは飛んでいない。

エレナは目を閉じる。
もう母の顔は思い出せない。
あれっきり、何度お願いしても、サンタクロースはやってこなかった。

エレナはそっとカーテンを閉めた。
部屋は真っ暗になった。
エレナは手探りでベッドに潜り込み、コロロを抱きしめた。

サンタクロースは母を連れてきてはくれなかった。
母は、諦めきれない夢を追って、家を出た。
エレナが母の夢を叶えてあげられなかったから。
だからエレナはサンタクロースになりたかった。
夢を叶えるサンタクロースに。


#イブの夜

12/25/2023, 11:00:11 AM