「なぁ、一緒に遊ぼうや!」
遥か昔、ずっと1人でいた僕に一筋の光が差し込んだ。彼はにっこりと笑うと僕の手を引いてみんなの居る方へ駆け出した。
「アンタはどないして遊ぶのが好きなん?」
「せや!みんなで鬼ごっこやろうや!」
「鬼なってもた!よっしゃ、全員捕まえたるで」
彼はいつも明るく、眩しく、輝いていた。僕はそんな彼を素直に尊敬していたし、大好きだった。
でも、他の子供達は違った。僕のことを嫌った。僕は人間のことが嫌いになった。
自慢のふわふわした尻尾と耳や赫い瞳のせいで僕は仲間になれなかった。どうして僕は人間として生まれることが出来なかったのだろう。みんなと「普通」に遊びたいのに。どうして僕は…。ただ、ただ悔しかった。
「俺は好きやけど」
まだ暑さの残る九月、神社の裏で彼は確かにそう言った。その言葉が僕は何よりも嬉しかった。だから僕は自分の持つ力全てを懸けて彼の幸せのお手伝いができたらと思った。人間の中でも彼は特別だった。
しかし、現実は甘くなかった。彼は飲酒運転をしていた車に撥ねられ息を引き取った。僕が仕える神社の近くにあるお墓に彼は眠っているらしい。でも僕はここから出ることはできないから、彼の親族が真っ黒な服を着て歩く姿を見ることしか出来なかった。
もう、忘れよう。あの時みんなと遊べたのは甘美な夢だと思おう。ただの、神社に棲む狐として…
僕の姿は子供にしか見えない。だから、子供が僕に挨拶をしても隣にいる親は何に挨拶をしているのか分からない。神社で不思議なことが起こるのは僕達がいるからだ。母親の胸に抱かれた小さな赤ん坊が僕の姿を捉える。にこりと微笑むと赤ん坊にまじないをかけた。
例え、仲間外れにされても。嫌われても。失敗しても。
「君が幸せな人生を歩めますように」
僕は、完璧じゃない人間のことが大好きだ。
9/9/2025, 7:51:26 AM