手のひらに乗せておけるものには限りがあるってことを、なんにもわかっていなかった頃。大事だと思いさえすれば、なんでもかんでもぜんぶ、ちゃんと大事にできるって信じていたあの日。
今はもう、そんなふうにはできないな。
わたしの中にあった大いなる無邪気さの海は、もう尽きてしまった。大人になるにつれて、枯れてしまった見果てぬ未来。
残っているのは、両手に乗るだけの、小さくて儚いばかりのものが、ひとつふたつ。大事にできるのはそれくらいだなって、思い定めたささやかなもの。
握り潰してしまわないように、壊してしまわないように、そっと手のひらにおさめてある。
でも、これも。
いつかは、わたしのところから消えてしまうのかもしれないな。いつかそうするべきだと思ったら、わたしはきっと、手のひらを開いてしまうだろう。
だから、今だけ。今だけは、そっと手のひらを閉じておこう。潰さないように、壊さないように、包んでおこう。まだ、もう少しの間。
#そっと包み込んで
5/23/2025, 6:07:54 PM