白糸馨月

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お題『力を込めて』

 ゲーセンでパンチングマシーンで新記録に挑戦しようとした時、とつぜん異世界に転移させられた。なんでこんなことになったのか、私にはよく分からない。
 どうやら洞窟の奥の方みたいで、私の目の前にパンチングマシーン台程度の大きさの石板が置かれている。石板は青い炎に包まれていた。
 上から女性の声が聞こえてくる。
「よく来ました、異界の方。お願いです。目の前の石板に一発、拳を入れてください」
 わけもわからず、私は拳を握る。
「これを破壊すれば元の世界に帰してもらえるんですよね?」
「えぇ」
 言っていることが本当ならば、と、私は拳に力を込めてありったけの力で石板を殴りつけた。
 いつもムカつく上司や、同僚の顔を思い浮かべながら殴っている成果が出たのか、石板はあっけなく砕かれ、轟音とともに私の体が浮かび上がり――気がつくと、もとの世界に戻ってきていた。
 さきほどいた世界がどうなったか、知らない。私は困惑しながら自分の拳を見つめていた。

10/7/2024, 11:47:06 PM