レイ

Open App

#ココロオドル

「はぁ……」

自分一人しかいない部屋に、その溜め息は大袈裟なほど大きく聞こえた。

「退屈…」

最近、日常にこれといった楽しみがない。
毎日、家と会社の往復。休みの日は寝て終わる。
友達はみんな忙しそうだし、誘う勇気もない。

ずっとこのまま、変わらぬ生活が続いていくのだろうか。
そう思うと、自身がなんのために生きているのか、分からなくなってくる。

「………」

ダメだダメだ。
マイナス思考にとらわれると、どんどん引きずり込まれてしまう。

こうなったら、無理にでも体を動かして誤魔化すしかない。そうと決まればお出かけだ。

私はしばらく使っていなかったバッグを引っ張り出して、そのまま家を出た。

……………

(昼間だから陽が強いな……)

帽子をかぶってきた方が良かったかもしれない。
そんな小さな後悔をしつつ歩みを進める。

行き先は特に決めていない。目的も決めていない。
ただ、心の赴くままに。

「……あ」

視線の先に、小さなスイーツ店が映る。
最近スイーツなんて食べてなかったから、久しぶり食べようかな。

初めて入る店は緊張したけど、美味しそうなチョコレートケーキを買った。

そのまま帰っても良かったんだけれど、あえて回り道。
特に意味は無い。なんとなくだ。

犬の散歩をしている人。
ランニングをしている人。
色んな人とすれ違う。

(この人たちも、生きてるんだな…当然だけど)

そんなことを、ふと思う。
同時に、少しだけ、同じように生きる命を愛しいと思った。大袈裟だろうか。

「……あ、この花」

小さい頃よく見かけた花だ。
名前は分からないけど、可愛いよねって友達と話していた記憶がある。

私はあの頃とは随分変わってしまったけれど、この花はあの頃と変わらないまま、ただ、そこにあった。

それがなんだか嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。

「ふんふんふーん♪」

気づけば鼻歌も歌っていた。
帰路につく足取りは軽い。
ココロが踊るって、こんな感覚なのかな。

当たり前の日常には、こんなに幸せが溢れてる。

10/9/2023, 6:27:25 PM