涼夏

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 ようやく寒さが緩み始めた頃、梅の花が1輪、ぽつんと花開いているのを見つけた。きっと昔の私だったら、気にかけることもなく、足速に通り過ぎていただろう。まだ開ききっていない、小さな花弁。一体私はいつから、花を眺めるということを覚えたのか。
 春を待たずに旅立ってしまった妻は、この花を見て何を思っただろう。小さな花さえ見つけては私の腕を引き、花に疎い私にひとつひとつ教えてくれた。ああ、見て、綺麗に咲いているわ。昔より増えた目尻のシワをいっそう深めて無邪気に咲っていた妻の顔は、昔と変わらず喜びに満ちていた。
 なあ、空の上にはどんな花が咲いているんだ。無機質な石の前に、妻がいっとう好きだった花を供える。どうか彼女の好きな物で溢れていますようにと願いながら。

お題:花咲いて

7/24/2024, 4:21:10 AM