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「もしも未来を見れるなら、きみはどうする? 見て納得がいかなかったら、未来を変えてみたいと願うかな?」
 彼が真剣にそうたずねるものだから、私は笑ってみせる。表面上だけで。
「永遠に見なくていいわ。別に見る必要もないじゃない」
 変な人だった。そんな男性からの唐突な言葉。
 きっとおかしな勧誘に違いない。
 あまりに真っ直ぐに視線が合ったものだから、足を止めたのが失敗だった。
 急いでいる訳じゃないのも魔が悪かった。
 突き放すような私の声音に、むしろ彼は安堵したような息を吐く。
「きみがそう言ってくれて安心したよ」
 にっこりと笑った彼は、私とすれ違う時、まるで重大な秘密を告げるかのごとく小さく呟く。
「未来を手放してくれてありがとう」と。
 私は振り返り、おかしな雰囲気の男性の背中を見送ってから、自分の鞄からスマホを取り出す。
 --さあこれから何で気を晴らそうか。変な人だったけど、そうしつこくなくて良かった!
 ふと時間を確認しようとスマホを見てみれば、いつもの所にデジタル表示の時計はなかった。ロックを解除してみても、画面に時間が表示されない。

 そして未来だけではなく、過去や現在というものが、ゆっくりゆっくり私から離れて行ったのだった。

4/20/2024, 7:18:03 AM