しずく

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彼が俺の腕のなかで泣きはじめてから、彼の背中をさすりながら、時折彼の肩と髪に積もっていく冷たい雪を払っていた。

「…そんなに寂しかったか、ごめん」
 背中をさすりながら冗談で言ったつもりだった。
 ツンデレな彼は寂しくても、そんなわけねえだろと食いぎみに反論してくるから。そういうところも含めて好きだった。
 でも今日はちがった。
 消えそうな声で震えるように、
「はんとだよ...っ、今までなにしてたんだよ、ばか...っ」
 なんて、抱きつく力が強められた。
「連絡しても既読つかないし、電話繋がんないし、そもそもなんも言わないで離れていくなよ...。こっちの気持ち、ちょっとは考えろよ..っ」
 毎日不安だったし、寂しかった────、と。
 こんなふうに泣いているのは、完全に俺のせいだった。
「...ごめん」
「許さない。...けど、生きてまた帰ってきたから許してやる」
 震える俺らの声が真っ白な雪に溶けてゆく。
「あと、...もう離れないって約束して。しないと許さない」
 とくん、とくん、と彼の鼓動が伝わってくる。きっと俺の鼓動も伝わっている。
「離れない、離れないよ。...ほんとごめん」
「...いい」
 雪にかき消されていく寂しい公園のまんなか。
 彼の背中に縋りながら、胸のなかで縋られながら、彼の背中をさすっては、たまに肩や髪にのった雪を優しく落としていた。



─泣かないで─ #128

(泣かないで、という言葉は個人的に好きじゃないかも。泣いて、のほうが好き)

11/30/2024, 11:57:38 AM