思い出

Open App

夏休み、最後の一週間。

とても大事な一週間、私と彼は宿題を終わらせるため、
一緒にレポートを進めていた。
まぁ、お互い殆ど終わっていたので、間違いや忘れ物が
無いかの確認作業となったが。

朝九時に集まって、大体夜七時前に帰宅する。
集まる場所は、お互いの家だったりファミレスだったり。
楽しく、忙しい日々が六日間過ぎた。

そして、最後の七日目。

その日は彼が私の家に来る事になった。
大体、朝の九時過ぎ辺に、チャイムが鳴る。

「おはよー。」

と、やる気の無い声と共に、眠そうな彼の顔が
インターホンに映る。

〔おはよう。今開ける。〕

軽く返事をして、私は鍵を開けに玄関に向かった。
チェーンを外し、鍵を開けると、彼が猫背で立っている。

「お邪魔します。余裕持ってがんばりましょ。」

家に上げると、彼はやはり眠そうに言う。
思わず、

〔そのトーンで言われてもなぁ。〕

そう言って苦笑いをしてしまう。

彼を居間に案内して、私はキッチンで冷えたお茶を入れる。
…そういえば、ほうじ茶で良かったのだろうか。
そんな事を考えながら、私もお茶を持って居間に向かう。

居間の扉を開くと、早速レポートを広げて、彼は作業を
始めていた。
さっきまであんなに眠そうだったのが、嘘みたい。

〔お茶持って来たよ。ほうじ茶で良かった?〕

私が話し掛けると、彼はパッとこちらを見て頷く。
良かった。

「ありがと。先に始めててごめんね、さっさと終わらせて置きたい所があってさ。」

少し申し訳無さそうに彼が言った。
お茶を机に置き、ノートを覗く。
そのレポートは、私はもう終わらせてあった所だったので
大丈夫。とだけ言う。

〔全然。さっさと終わらせて、ゲーセン行くんでしょ。
気にしなくていいよ。〕

そう言いながら、私もノートを開き、作業を始めた。

「うん。頑張ろう。」

その返事を聞きながら、頷いた。

カリカリと、静かな音だけがする。
外では少し時期外れな蝉が鳴き、室内の静寂を際立たせる。
会話もせず、時々お茶を飲む、ゴクリと喉の音が部屋の中に響く程、静かだ。

私は、ノートをめくりながらに考えていた。
もしかしたら、今の自分の胸の鼓動が、彼に届いてしまうのではないかと。

これだけ静かだと、少しだけ不安に思う。
今、こんなに、ムードも欠片も無い所で、彼に想いを知られてしまったら。

ある意味、一生忘れられない思い出になってしまう。

「大丈夫?何か分からないとこ、ある?」

私の手が止まっていたのが気になったらしい彼が、
近づいてそう聞いてくる。

ドキッとして、私は少し仰け反ってしまった。
不思議そうな彼に謝りつつ、

〔何でも無いよ。大丈夫。〕

とだけ伝えた。

嗚呼吃驚した。本当に、鼓動が届いたのかと思った。

私は不安か安堵かも分からない息を少し吐いて、
また作業へと意識を戻した。

9/8/2023, 11:07:50 AM