マトリカリア

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「はいこれ、誕生日の」

 食器をシンクに持っていったあと、テーブルの上にポンと置かれたベルベット張りの小箱に心臓が跳ねた。
 ジュエリーケース特有の引っかかりを指に感じながらそっと開ける。
 ティアドロップ型のプラチナのフレームに、繊細に揺れる青い石。きれいなペンダント。

「サファイアだよ、誕生石だろ?」
「……いや違うし、アクアマリンだし」
「ええ?」
「知らないの? 天使の涙」

 とたんにブハッと吹き出した。

「天使って柄かよ!」
「ひどっ」
「まあどっちでもいいじゃん。お前よく泣くからさ、ぴったりのデザインだろ」

 そう言って屈託なく笑う。プレゼントのチョイスに心から満足しているんだろう。
 それ以上なにも言える気がしなくて、ため息とともに飲み込んだ。
 明るくて優しくて、ちょっとおっちょこちょいなところも可愛い私の恋人。そのはずなのに。

 どうせならその朗らかさで、私を泣かせないようにしようとは思ってくれないの。



(雫)



 書きながら宮部みゆきさんの『火車』を思い出しました。完璧だった計画を綻びさせた婚約指輪のくだり。

4/22/2024, 10:28:35 AM