ㅤ自分で歩くより高い位置で、右に左にと揺られる身体。なんだか面白くなって、私はクスクス笑ってしまう。火照った頬を夜風がやさしく撫でていく。
「やっぱさ、去年より小さくなったんじゃね?」
ㅤ前を向いたままで宏樹が呟く。そう言われても、私の身長はほとんど変わっていないのだ。
「あんたがデカくなったんでしょうが!」
ㅤ脚を蹴飛ばしてやるつもりが、目標を誤った。宙を切ったつま先の勢いで、私の身体が後ろに傾ぐ。
「わっ、暴れんなよ、酔っ払い!ㅤ落とすぞ!」
ㅤよいしょ、という声と共に上下に揺すられて、視界が一段と高くなる。抱え直された私はニヤリとする。落とす気なんてない癖に。
ㅤ宏樹にしがみついて、また空を見上げた。死んだ人はお星様になるって話は、母に聞いたんだったかなぁ。宏樹が生まれるよりずーっと前に。
ㅤ名前なんて碌に知らないけど、気づけばいつも星を探している。あの人が遠いところへひとりで旅立ってしまったこの季節は特に。
ㅤあちこち目を凝らしていたら、
「ちょっとじっとしててくれよ」
「……ごめん」
ㅤ叱られて、大人しく背中に頬を預けた。洗剤の香りが鼻先を掠める。息子は何も言わない。毎年甘やかされているなと私は思う。
ㅤ遠い昔、抱き上げて歩いた君の背中に、いつの間にか負われて。あの頃と変わらない家路を私は辿る。
『君の背中』
2/9/2025, 4:21:04 PM