珍しいものであればあるほど、天に近ければ近いほど、願いは叶いやすい。そんな気がしている。だけど、急いで叶えたい願いは、流れ星や神様に届ける頃には遅すぎてしまう。だから月に願いを届けようとした。
叶えたい願いはきっとはたから見たらしょうもないものだった。
どうしても、学年末テストの点数を上げて欲しかったのだ。理由は一定の点数を超えないと推しのライブに行かせないと親に言われてしまったからだ。せっかく当たった抽選チケット。しかも席は最前列のアリーナ席。逃すわけにはいかなかった。
だが、肝心のテストの出来はイマイチだった。苦手だった理系科目では思っていたほど、空欄を埋められなかった。得意科目である文系科目ですら、点数を伸ばせれたかどうか危うい。
お願いします。どうか、どうか推しのライブに行かせてくださいとひたすら祈って、祈って、祈って、祈り続けた。
そして、それが通じたのか、自信なんて微塵もなかったのに過去最高点を叩き出していた。だが、よくよくみるとそれは先生の採点ミスだったり、計算間違いよる点数であることがわかった。正直に言おうかどうか悩んだ。言わなければこのまま私の点数になっていい成績にも繋がって、推しのライブにも行くことができる。悩んだ。正直になったところでメリットはない。だけど、このまま嘘をつくのも心が痛む。
悩んだ私は推しのライブを諦めた。せっかくの最前列を逃したくはなかったが、今回が最後ではない。また、次の機会に会おうと思って全ての先生に答案用紙を返して、正してもらった。ライブに行きたかったなという気持ちは捨てきれなかったが、後悔はなかった。
だが、なぜか次の日に母はライブのチケットを渡してきた。素直に理由を聞いてみると、先生から電話があって私が点数が下がるのに採点ミスを指摘してくれたことが立派だったと話していたらしい。
母は「正しく生きるとね、いつか巡り巡って自分のためになるのよ」と言った。
だが、そんなことはどうでもよくて私の目には最前列で見られる推しの姿が目の前に浮かんでいた。
5/26/2023, 12:42:44 PM