愛し合う二人を、好きなだけ

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小説
迅嵐※過去捏造



そこら中から煙とむせ返るような血の香りがした。


「だめだ最上さん!!行かないで!!!」

仲間に支えられないと立ち上がることも難しくなったこの体を、一生懸命にあの人の元へと伸ばす。

「最上さん、最上さん…!!」

だめだよ、ねぇ、最上さん

「いかないで!!」

どんなに泣いても、声が枯れるまで叫んでも、最上さんがこちらを向くことは無かった。

「…おれを一人にしないでよ…」




「……ん…じ……ん…!……迅!!!」

「…っ!!」

目を覚ますと、そこは見慣れた自室だった。
浅い呼吸を繰り返し、肺に酸素を送り込む。けれども混乱しているせいか、中々上手く息を吸い込むことが出来ない。

「迅、落ち着け。まずは息を吐くんだ。そうしないと吸えるものも吸えなくなる」

おれは嵐山の言う通りに息を吐く。そして息を吸う。それを繰り返すと、やっと呼吸が楽になった。

「…嵐山…おれ…」

「…凄くうなされていたぞ。それに酷い汗だ。待っててくれ、今タオルを…」

そう言うと嵐山はベッドからするりと抜け出す。

「…っ、まって、」

今さっき見た夢のせいか戻ってこない気がして、おれは反射的に嵐山の腕を掴んでしまった。

「お願い、ひとりにしないで」

腕を引かれた本人は驚いたように目を見開く。
しかしそれは直ぐに、聞き分けのない子供に対しての困ったような、それでいて優しさを隠しきれていないような笑みに変わった。

「…大丈夫、今はタオルを取りに行くだけだ。きっと寝汗で服が濡れて気持ちが悪いだろう?…必ず戻るから」

嵐山の笑顔は、どんな状況下でも安心できるらしい。
不安が残る中、おれは渋々嵐山の腕を離した。


汗を拭き服を着替えると、既に嵐山はベッドに入っており、こちらに向かって手招きをしていた。

素直に嵐山の元へ向かうと手を引かれ、横になると布団をかけられた。
そしておれの頭を抱えると、ぽつりと小さな声で言葉を零す。

「きっと大丈夫さ」

嵐山のとくとくと規則正しい心音がおれの心を落ち着かせる。

「……嵐山は、おれを一人にしない?」

「うーん、…それは分からないな」

「…はは、嵐山らしいな」

まさに三門市のヒーロー、ボーダーの顔、家族を第一に考える嵐山らしい言葉。それが今のおれには重すぎず丁度良かった。

「ほら寝よう、…そうだ、明日の朝ごはんは鮭を焼こうか」

「ん…いいね、楽しみ」

きっと明日はお前が笑っていられるような未来にするから。


優しい音とあたたかな腕に安心しきったおれは、ゆっくりと眠りに落ちていった。

10/21/2024, 1:17:34 PM