彩士

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「すみませーん!ごめん下さーい!」
パタパタパタパタ、スリッパで駆けてくる音がする。
「はぁーい、ちょっとお待ちくださいね」
がらがら、と建て付けの悪い引き戸をひいておばさまが出てきた。私の姿を見て大きな目をぱちくりとする。
「はじめまして。私、前日連絡させていただきました、阿久津と申します」
にっこりと笑って、自己紹介をした。

いかにも日本というような和式造りの家。
ちゃぶ台のある部屋へ通されて緑茶を一口いただく。
おばさまは、私のようなものが来ると思っていなかったのだろう。私のような、幼い子どもがくるなんて。
身長が一五ニセンチの子どもが全く知らない他人の家を訪ねてくるのは、想像できなかったのだろう。
先ほどからちらちら私の顔を窺っている。そろそろ本題に入った方が良いだろう。

「こちらに窺ったのは、私の祖母についてお話ししようと思ったからなんです。実は認知症になってしまいまして、最近は昔のことをよく話すようになったんです。まるで子どもの頃に戻ったみたいに。よっちゃんがよっちゃんがって、ずっと言ってて……それだけなら知らなかった事を知れて良かった、で終わるんけど、最近は何か物を探し求めるような感じで」

「あ、言い忘れていたんですけど、祖母の名前はセツ子です」
「ああ!セッちゃん!懐かしいわぁ。私のセッちゃんはね、ほんとに仲良くて、双子みたいに息も合ってね。二人でいろんなところへ行って、ちょっとした悪戯もしちゃって、そうそう、秘密基地も作ったのよ」
手を合わせて、ふふっと笑って楽しそうに話してくれる。二人の仲が良かったのが伝わってきた。

「はい、祖母から佳子さんのことを聞いてここまでやってきました。なんとか、調べ上げて。すみません、勝手に」
「いいのよいいのよ、私のこの家の住所は変わってないからね、住所碌を見たら分かっちゃうもの。昔は個人情報なんてガバガバだったの。気にしないで。ところで、セッちゃんが何を探しているのかしら?」
軽く身を乗り出して聞いてくる。目をキラキラさせて。
「あの、ポポットって言ってるんです。私には全く分からないのですが。ご存知ですか?」
「ポポット……!合ったわねぇ、そんなの」
 
私持ってるかしら…、と立ち上がって家の奥へ入って行った。ポポットってなんだろう。聞いたことがないし、物なのか合言葉なのか、ずっと考えてきたけど、こんなに簡単にわかる人がいるなんて!
少しの間待っていると、おばさまは何かを持ってやってきた。木製の人形がピアノ三体ついた作りのもの。なんだろう。
「あったあった。これはね、オルゴールなの。秘密基地を作ったっていっていたでしょう?その時に秘密基地に置いていた私たちの宝物なの。私の親戚が買ってくれてね、仲良く二人で曲を流して聞いていたの。それで、この子がポポット」
人形のうち一体を指す。
「この子たちの名前だったのよ、実はね」
ウインクをして自慢げにおばさまは言う。
「あなたがきてくれて本当によかった。じゃないとこのオルゴールのことも、この子たちのことも忘れてしまっていたんですもの。セッちゃんは覚えていたのね」

しんみりとオルゴールのからだを撫でている。
「ねぇ、セッちゃんに会わせてくれないかしら?もうずっと会っていないから。ほら、互いが生きてるうちに会っていたいじゃない?」
「もちろん!会いにきてください!」
「ふふっ、じゃあ今度お邪魔するわね」







「セッちゃん!久しぶり!佳子だよ?よっちゃんだよ!わかる?」
「よっちゃん……?」
日をおかずにやってきた佳子さんにおばあちゃんは最初分からない反応を示した。
でも、
「よっちゃん!久しぶりだねぇ!元気してた?」
すぐに思い出したようだ。ポポットも持ってきてもらって、探してたのを目にして安心したみたい。
おばあちゃん、よかったね。



7/6/2023, 12:16:26 PM