「お祭り」
隣町の盆踊りに出かけたことがある。そのために祖母が新しい浴衣を縫ってくれた。中学一年の夏のことだったかもしれない。友人と二人で行く予定だったけれど、祖母は心配してついてきてくれた。
楽しく踊った後、友人と別れて、祖母と私は夜道を並んで歩いた。いまの様に熱帯夜ではなく、涼しい夏宵の風にふかれながら、特別、何か話し合ったわけでもなく黙々と歩いた。
ただ、それだけなのだけれど、妙に忘れられない。その夜は、何か幸福感に包まれていた。祖母は、浴衣生地を買い、縫い上げて、私ひとりのために時間を費やして、その夜も嫌な顔をせず、にこにこと幸せそうだった。
幸福とは、何気ない日常のなかの、あたりまえの生活のなかにあって、人が当然と思うことが、守られていることなのだと思う。
盆踊りは宗教的な行事で、それが行われるのは特別な事ではなく、日本では息をするように自然なことだ。ところが世界のどこかで、当たり前のことは、当たり前ではなく、当然の権利としてあるべきものが、奪われることもある。
祖母と二人で過ごした夏の夜は、それがどれだけ特別な出来事だったのかと、過ぎ去ってから思い出している。ささやかな日常を守ることが、どれだけ大変で困難なことなのかと、毎日の国際ニュースをみていると思い知らされる事がある。
世界の人、ひとりひとりに宗教、文化、生活があり、お互いがお互いに尊重し合いながら、手をつないでいける未来であって欲しい。
7/28/2023, 1:43:32 PM