エチ²O₂π

Open App

ここはよく知っている。じゃれあいながら通っていた小中学校の通学路も、その付近に駄菓子屋がある事も。冒険と称して友人らと危ない道をひたすら渡ってみたり、クラスメイトの家を探しては遊びに誘ったり、誰が一番早く公園に着くか競ってみたり。
引っ越してからは織物の糸が解かれていくように在りし日を断片的に、確証の無い曖昧模糊な思い出として記憶していたのだが、訪れてみれば自分がここで生きていたことを自分の名前が彫られている大木が教えてくれる。まばらな糸が体系的な形を現して織物になる。
すぅぅと息を吸って、ゆっくり吐く。
街は既に解かれていた。
ここは知らない街だ。

「遠くの街へ」

2/28/2023, 2:48:08 PM