自転車に乗って

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 買い物帰り。自転車に乗って、街中を走っていたら、同じように自転車に乗って、仕事中の彼と出会った。実家が弁当屋さんである彼は、毎日のように自転車でお弁当を届けている。こんにちは、と挨拶するとぶっきらぼうに「……ちっす」と小さく頭を下げた。毎日暑いね、と話しかける。「まぁ…、夏だからな」と彼が答える。荷台にはまだ配達の済んでいない、お弁当の入った白いレジ袋のかたまりが何個か重なっていた。
 仕事の邪魔をしてはいけないと、わたしはまたねと別れを告げ、歩き出す。すると、後ろから「待てよ」と呼び止められた。彼の元へ戻ってくると、手のひらに一枚の紙を押し付けられる。
「これは?」
「……新作弁当、発売したからお試しクーポン」
「い、いいの?」
「た、たまたま会ったからついでだ。別に、お前に渡そうと思って、用意してたわけじゃねぇ」
 そう言う彼の表情は、夕暮れのせいかよくは見えないけれど、少し赤いように見えた。視線がかち合うとばつが悪かったのか、すぐに逸らされる。
「た、確かに渡したからな」
「うん、ありがとう。早速、明日買いにいくね」
「……じゃあな」
 足早に走り去っていった彼の背中を見送りながら、家路へと急ぐ。新作のお弁当、どんなのだろう。頭の中で考えるだけでもわくわくしてきて、明日が楽しみだなあ、と思いながら自転車を走らせた。

自転車に乗って
(君と出会った)

8/15/2022, 4:11:25 AM