「願いを叶えて。」
「リリー」
「ん?」
「今日の晩飯何がええ?」
「唐揚げ!!」
「昨日も唐揚げやったやろ。うーん。
しゃあないなぁ。今日も唐揚げパーティーや」
「やった!ありがと。流星」
「よっしゃ。決まったら買い出し行くでー」
リリーと流星は足を早めて近くのスーパーへ歩いていった。
格安のシールがついた唐揚げをいつもは一パックのところを2つ買った。
嬉しそうに頬を緩めて袋を持つリリーの横で穏やかな目をした流星が歩く。
すっかり暗くなった空の下を歩いた。
流れ星が流れていった。
それを見つけたリリーは密かに願うのだ。
「どうか夢よ覚めないで。」
「――リリー?大丈夫か」
「――春来先輩。」
リリーの目から涙がそっと溢れていた。
「はい。大丈夫です」
「ならいいが。」
春来は心配そうに眉を下げた。
今は戦場へ移動する車のなか。
どうやら眠ってしまっていたらしい。
リリーは窓の外を静かに眺めた。
今から怪物を殺しに行く。
あぁ。おかしな話だ。私だって怪物なのに。
流星がいなくなった私の世界はずっと夜。
空は暗く私の姿を消してしまう。
「リリー。今日の夜ごはんどうする?」
「――御幸先輩。」
今度は野宿する施設の前で声をかけられた。
「――唐揚げ。」
「ははっ。また唐揚げかぁ。分かった買ってくる。」
「ありがとうございます。」
御幸は春来に報告し、近くのスーパーに行った。
愛奪還組の食料は基本的に食べたいものを買いに行く。少しおかしいとは思うが死ぬかもしれないのだ。
後悔を残さないためないためなのかもしれない。
「リリー先輩。」
「晴流也。」
「すっかり夜ですね。俺、夜好きなんですよね」
「へぇ。――私は別に」
「そうすか。――あっ流れ星。ほら願い事!」
「願い事。」
リリーは心のなかでそっと唱えた。
「これが夢ならさっさと覚めればええのに。」
「先輩なんて願いました?」
「――内緒。」
「えー?ケチ」
「願い事は言ったら叶わへんから。晴流也は?」
「俺は早く戦いが終わりますように。です。
あっ。言ったら駄目だったんでしたっけ。」
「まぁ。別にええんちゃう。」
晴流也もみんなもきっと戦いが終わることを夢見てる。私もそうなんだけどなぁ。
完全に戦いを終えるには私も――。
ふぅ。とリリーは思考を払うように息を吐いた。
いま考えても仕方ないか。
こういうときは嫌でもあの頃のことを思い出す。
瞼が重くなる。あぁ。御幸先輩が唐揚げ買いに行ってくれたのに。その前に寝ちゃう。
リリーの身体は支えを失ったように静かに横たわった。
「――流星。あれってなんなん」
幼いリリーは流星に尋ねた。
指の先にはテレビに写る夫婦。リリーは夫婦の指にある指輪に目を止めた。
「あれか。あれは結婚指輪やな。家族になった男女がつけんねん。」
「へぇ。じゃあ私らもつけようや。」
「あ?なんでやねん。」
「だって家族やん。その印はいるやろ。」
「いや。違っ―。うーん。まぁえっか。明日買いに行くか。」
リリーは目を輝かせて言った。
「うんっ。しゃあないから着いていったる!」
翌日。
二人はいつもより少し遠出をした。
少し大きなショッピングモールのおもちゃ屋さん。
指輪屋さんは高くて手を出せない。
だからおもちゃ屋さん。
指輪のあるコーナーで指輪を選ぶ。
「よし。どれがええ?」
「うーん。なぁ流星が選んでや。私は流星の選ぶ」
「よっしゃ。任せとき」
30分ほどたった。
2人とも手に一つずつ指輪を握りしめ発表会をする。
「行くで。せーのっ。」
2人は手を開いた。
リリーの手のひらの上には青色の宝石のついた指輪。
流星の手のひらの上にはピンク色の宝石がついた指輪。
「なかなかにセンスあるやん。」
リリーがいった。
「そちらさんもな」
2人で笑いレジへ言った。
さすがにおもちゃ用の指輪は流星の指には会あわなかった。だから100均で2つ入りのチェーンをかってネックレスにした。
帰り道。
流星がリリーに言った。
「いつか本物の宝石ついた指輪買ったるからな。」
「――ほんま?約束な。楽しみにしとるわ」
2人は笑ったいつもの暖かい温度で。
一つの約束が結ばれた。
その約束が流星とリリーを繋ぎ、紡ぎほどけていけていくのはこの少し後のおはなし。
リリーは重たい目を開けた。
辛く幸せな夢だった。
戦いが始まった。
銃弾が放たれる音。鈍い打撃音。爆発の音。
火薬の匂い。毒の匂い。薬の匂い。
乱れる髪は白く美しく、怪物から命を奪う。
華奢な身体から放たれる強烈な剣筋も、怪力も
聴覚も嗅覚も。仲間の死をとらえる視覚も。
全て怪物だという証拠のよう。
怪物の腹をさく度。怪物の声を聞くたび。
「あぁ。私もそちら側か。」
そう思う。
視界の端で御幸に怪物が向かうのを捉えた。
「危なっ――」
言い終わる前に身体が動いていた。
助ける動作でも叫ぶ動作でもなく。
諦め目を伏せまた前の敵に向かう体勢。
御幸先輩が死ぬかもしれないのに。
私はやはり怪物だ。
御幸先輩の声が聴こえた。
「ぁぶなっ!」
御幸先輩の足が人間か?と思うほど早く骨を感じないほどの柔軟性で曲がり強烈な蹴りを与える。
御幸先輩は生粋の毒使いだ。人間型への勝率は春来先輩を軽く越して一番。
靴の底に仕込まれた毒たっぷりのナイフが怪物の首を深々とさす。
「よかった。」
リリーが御幸先輩の方を見つめ思わず呟いた。
そのときだった。
「リリーっ!」
いきなり御幸先輩が私の方を向いて叫ぶ。
その時リリーの肩を後ろから怪物が突く。
痛っ。
そう思ったときには身体が動き、持っていた刃が怪物の口から入り脳を貫き頭蓋骨にぶつかった。
「大丈夫っ?」
御幸先輩が尋ねた。
「はい。怪我はないです。」
それもそのはず。
リリーは怪物だから例え大怪我をしても一瞬で完治する。
一瞬紫の泥のようなものが傷口から溢れたが
だれもみていないだろう。
戦いは続いた。
無事に愛奪還組は待機場所へと帰還した。
何人も死んだが別に仲もよくないやつらだったからなにも思わない。
春来先輩は酒をたくさん抱え共同墓地へ。
御幸先輩はそんなに春来先輩を見送り訓練場へ。
私は愛奪還組の休養室へ行った。
この時間帯はあまり人がいない。
ソファに座り息をついた。
その時だった。
「――リリー先輩。」
「――晴流也。どうしたの」
「俺。見ちゃったんです。」
流星は分かりやすく目線を外した。
「何を?」
「――言いたくなかったら、構いません。
もしかして先輩って――怪物。なんですか」
「は?」
リリーは目を開いた。
なんだか涙がでそうだった。
あぁ。バレてしまった。あぁ。殺されてしまう。
なによりも。――嫌われてしまう。
流星の愛もなにもわからなかったよ。
沈黙の時間が流れた。
はい。ともいいえ。とも言わない。
でも沈黙は肯定のようなものだ。
晴流也は口を開いて言い出した。
「リリー先輩の傷が治るのを見てしまったんです。」
「――へぇ。」
リリーはなんだか腹が立った。
八つ当たりだとは分かっている。
でも死ぬ前に爪痕を残したかった。
少しでも愛を知れるチャンスを逃したくなかった。
リリーは声を荒々しく絞り出した。
「怪物だったら。なに?
私が悪いん?なんでなん。
分からへんねん。人間ってなんなん。
生まれたときから怪物な私はどうしたらやかったんよ。」
晴流也はなにも言わない。
「大体私は中途半端やねん。
大好きな私をあの頃の私を。流星と一緒にいた私を
怪物だって認めたくなくて。ワンピースも埋めたし見た目も変えた。でも失くせんかった。
夢の中の幸せもあの頃の約束も。指輪も。
好きなもんだって変わらへん。
気付いたら言葉やってあの頃のに戻る」
リリーは言った。
「愛しかたやって分からん。
愛されてたって言えん。
私も怪物もホンマはなんも悪くない。
生きてるだけ。
ホンマに悪いのは。――――なんなんやろか」
目から気付いたら涙が零れた。
子供のように泣いた。
晴流也の前なのに。
身体は制御を失ったように少しずつ形を変えた。
少し大きな私から紫色の泥が溶け落ち、あの頃の幼いリリーが姿を現した。
「ねぇ。ねぇ。流星。――晴流也。私を許してや。
消えたいって願う私を許してやぁ。」
晴流也は優しくリリーを胸のなかに包み込んだ。
幼子をあやすように。
「リリー先輩。俺は別に責めてるんじゃないんですよ。貴方に怪我がないか聞きたかったんです。
痛くないか。聞きたかったんです。
だから。消えたいなんて言わないで下さい。ね?」
リリーは涙が止まらなかった。
晴流也。私は痛いよ。胸も今まで泣いて赤く腫れて治ってそれを見てまた泣いて。繰り返してきた瞳も。
今日の傷だって痛かったんだよ。
無事なんかじゃない。大丈夫なんかじゃない。
リリーは晴流也の背に腕を回し背中の服をがっちりつかんだ。戦闘中では考えられないほど弱々しく、払うとすぐに離れてしまいそうだ。
でも離れたくないとそう伝わる。
しばらくそうしていた。
ねぇ流星。私はいま晴流也を失いたくないと思うの。
ねぇ。流星。貴方の名前が願いを叶えるものならば
私のこの微かな願いを叶えて。
ねぇ。お願い。
いつか晴流也に大丈夫なんかじゃない。って目を見て言えるまで。私が消えられないように見張っていて。
泣きつかれるまで泣いた。
ずっと晴流也の胸のなかにいた。
泣きつかれて泣いて子供のようだった。
そんな私を晴流也は私が目を覚ますまで側で頭を撫でてくれた。
私は「愛」をしるよ。
過去の愛をしるために。
未来の。晴流也に心から愛してると言うために。
新しい約束を守るために。
私の夜空は真っ暗だ。
でもそのお陰で微かな光が、流れ星が見える。
私にはぴったりだ。
愛を見逃してしまう私が愛に気付けるような。
そんな私だけの、晴れ渡った世界だ。
5/4/2026, 12:21:58 PM