名無し

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神様が舞い降りてきて、こう言った

ゲンシツウ。それはなくなった箇所が痛むこと。
手がなくなって、手が痛んだら、ゲンシツウ。
俺はそのゲンシツウに悩まされている。
誰かのせいで。
珍しく、雪が降っていない冬の日だった。
何かが、葉っぱのように舞い降りてきて、こう言った。
「天使になりたいか?」
それは俺が、人間がイメージする神ってやつだった。
天使ってなんだよ。って最初は思った。
ふざけてるんじゃないかとすら思った。
でもそんなこと考える間もなく、俺はその神に連れ去られた。
神の小脇に抱えられ、瞬間的に。
連れ去られた先は、宮殿みたいな場所だった。
天使らしきものがそこに大勢いて、みんなくつろいだり、遊んだり、時々消えて何かを持って帰ってきたりしている。
その何かは瓶の中で青白く光り、ゆらゆらと瓶の中を漂っていた。
まるでそれは生き物の魂みたいだった。
見たこともないけど。
そんなこんなしているうちに、神は機械出てきた羽を俺の背中に刺してくる。
刺された時は、時は本当に激痛で、声が出せないほどだった。
でも羽はズブズブと俺の体にめり込んでくる。
そして、神は1526990の魂を回収してこい、そう言うと、すうっと煙のように消えた。何かを落として。
1526990。普通じゃなんのことだかわからないことだが、その時の俺にはなんだかわかったのだ。
少女だ。手を無くして貧血になり、もう亡くなろうとしている少女。
でも、俺はまだ助かるんじゃないかと思った。
どうにかすれば。
でも、俺の体は少女の魂を回収することしか考えていないように、神が落としていったであろう、鎌を持ち少女の元へと向かおうとする。
移動は簡単だった。
頭に少女のことを考えておけば、すぐに少女のいる場所へと行けた。
少女は車に撥ねられたらしく、身体中にあざや、擦り傷ができていた。
痛々しいその少女はまだ息をしていて、まだ、助かるんじゃないかと俺は思った。
助からなくとも、少しだけ、延命することもできるんじゃないかと。
でも、俺の体は、手は言うことを聞かない。
鎌を振り上げ、少女の魂を奪おうとする。
その瞬間だった。
俺は、言うことを聞かない手を、精一杯の力で方向を変える。
背中に向けて、鎌を振り下ろす。
機械の壊れる音がして、羽のメカは地面に落ちる。
無様な機械の断面を見せて。

その時から、俺はまた、自由になった。
人の、まだ助かるかもしれない人の魂を取ることなく、生きていけた。
でも、羽に痛みを感じるんだ。
もうない羽に。
ゲンシツウだ。
でも人の魂を、命を奪うよりはマシだ。

7/28/2023, 3:15:22 AM