愛し合う二人を、好きなだけ

Open App

小説
迅嵐※争奪戦捏造



嗚呼、これは罰なのだ。

おれは脈絡もなくふと思った。
最上さんのブラックトリガーの適合者が集められた争奪戦。

ひとり、胴体を切り離した。

ひとり、頭を飛ばした。

攻撃は全てサイドエフェクトで視て躱す。絶対に誰にも渡しやしない。

おれが持たなければならない。このブラックトリガーを持たなければ未来は動かない。

母さんが死んで、最上さんもブラックトリガーに成って、おれの守りたかった人はもう居ない。

これは、何も成し得なかったおれへの罰なのだ。
だからこうして仲間の腕を切り落とし、友人の腹を貫いている。

赤い隊服が視界の隅に留まる。いつもは見ることの無い銃口めがけてスコーピオンを放つ。
武器を壊され動揺している隙にぐっと距離を縮めた。
手を伸ばせばおれの勝ち。確定した未来が視えた。
きっと嵐山はおれを軽蔑するに違いない。何せおれは、目的の為に愛するおまえでさえもこの手にかけるのだから。

けれど嵐山は、その端正な顔を哀しそうに歪め、そして笑った。

「迅、泣かないで」

美しいエメラルドの瞳の中のおれは、泣いていた。
スコーピオンが嵐山の胸を貫く。大量のトリオンが溢れる中、嵐山はおれに向かって手を伸ばす。

頬に触れた手は温かかった。



「…ごめん」

「何を謝ることがある?これは正式な争奪戦だ。お前は何も悪いことなんてしてないぞ」

勝負はおれの圧勝で幕を下ろした。手には最上さんのブラックトリガー。望むものは得られたはずなのに。

「……」

顔を上げられずにいると、ふっと笑う声が聞こえた。見ると嵐山は眉を下げ、困った表情をしていた。

「…今日は泣き虫さんだな」

温かい指で涙を拭われ、おれは再び泣いていたことに気づく。

「……泣いてねぇもん」

「はは、そうか」

嵐山は口を尖らせるおれを包み込むように抱きしめる。身長が殆ど同じだから、肩口に顔を埋める。

「迅、さっきは泣かないでって言ったけど、泣いてもいいんだ。座り込んでも下を向いてもいい。けれど最後は一緒に笑おう。お前が立ち上がり方を忘れたのなら俺が引き上げる。上を向けないのなら、隣で俺が上を見ておこう。……大丈夫、未来はもう動き出しているよ」

優しく頭を撫でる仕草が、どことなく母さんに似ていて。一緒に進もうと励ます言葉が、どことなく最上さんの言い方にそっくりで。

「……うん」

おれは強く思った。次は必ず導いてみせる。
今度は独りだなんて思わない。

抱きしめる腕に少しだけ力を込める。


これは物語が始まる、少し前のお話。

11/30/2024, 1:34:05 PM