ほろ

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可愛いものが好き。美味しいものが好き。
可愛くて、美味しいものはもっと好き。

「あ、新作」

最近、学校の近くにケーキ屋さんができた。
一度も入ったことはないけれど、大きな窓ガラス越しに中のショーケースを見るのが好きで、できてからは毎日通っている。
今日出た新作は、ショートケーキ。真っ白の生クリームに全て覆われた、贅沢なショートケーキ。でも、さすがに窓ガラス越しじゃあ、分かるのはそれくらいだった。
「いちごの周りにも何かあるっぽい……なんだろ、ここからじゃ見えないな……」
うーん、でも、うーん……と、べったり中を覗きこんでいると、扉が開いた音がした。
「君、毎日来てるよね? 中、入らない?」
ショートケーキと同じ、真っ白の服のお姉さんが出てきた。お店の人だ。慌てて、言い訳を考える。
「あの、すみません、その、見てただけで、えっと」
我ながら、言い訳が下手すぎる。
お姉さんは、目を丸くしてクスリと笑った。その笑顔が月のようにとても美しくて、思わず言葉を失う。
「せっかくだから見てないで食べてよ、新作」
「えっでも、お金……」
「あたしの奢り。カヨちゃん、後で払うねー」
と、レジの人に声をかけるお姉さん。カヨちゃんと呼ばれたレジの人は、二つに結んだ髪をぶんぶん振って、全力で拒否していた。
でも、お姉さんはお構いなし。強引に店に引っ張られ、店内飲食用の席に座らされ、新作ケーキを目の前に置かれる。
「どーぞ」
白いクリームに全身覆われたケーキ。いちごの周りは、アラザンとハートのチョコレートが散りばめられていた。
「かわいい……」
口に出してから、あ、とお姉さんを見る。お姉さんは、ただ置かれたケーキをジッと見るだけで、さっきの「かわいい」は気にしていないようだった。
慎重に、ゆっくり、ショートケーキを味わう。生クリームの濃厚さと、アラザンの食感が混ざりあって、不思議な感じ。たまにチョコレートも顔を出す。
「どう?」
「おいしい、です」
「ふふ、でしょ?」
今度からは、見てるだけじゃなくて食べて行ってよ。
お姉さんが微笑む。肩に乗った金髪が滑り落ちて、さながらビーナスのようだった。

お礼を言って、お店を出る。お姉さんは、わざわざ店の外に出て手を振ってくれた。
「また明日ね、少年!」
手を振り返して、僕は駆け出す。

可愛いものが好き。美味しいものが好き。
可愛くて、美味しいものはもっと好きだし、それを作り出す美しい人を、今日好きになった。

1/16/2024, 2:20:25 PM