John Doe(短編小説)

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アナザー・ストーリーズ


何が不思議かっていうとね、僕以外のほとんどの人間がこの世界という存在に疑問を抱いていないという点なんだ。動物はいいよ、ただ本能に従って動いているだけなんだから。問題は人間なんだよ。何で人間だけがこんなに知的な考え方ができるのにそれをやろうとする人間は少ないんだろうかな? そこが本当に不思議なんだよ。みんなただこの世に生きて、そして死んでしまうのは当たり前だと納得してるのかな? 僕はそうじゃない。

僕はタバコを吸う。そして今日を少しだけ振り返ってみる。

今日の昼休みの後、そう、数学の時間だ。僕はある思考実験をしていた。ほとんど教科書やノートには目を向けず、ただ、教室の黒板の上の方、天井に近い辺りをじっと見つめて思考を巡らせていた。僕はいちばん右端の前の席に座ってて、クレイ先生はそんな僕に目を付けて、「聞いているのかね?」と注意したけど、僕は「イエス」と答えて再び思考を続けたんだな。

『僕は今、授業を受けている。少しだけ眠いのは、昼食の後だったからだろう。さて、僕は今、広大な宇宙の小さな星のそのまた小さな大陸の隅っこで、こうして授業を受けている。こいつは不思議だ。僕は本当にこの世界に存在しているのか証明できるものがなあんにも無いじゃないか。

僕はこうして黒板の上を見ているけど、僕のすぐ背後の世界がどうなっているかなんて、観測しようがない。もしかしたら、暗黒が広がっているだけかもしれない。だけど、僕が消しゴムなんかを落としてみせて、それを拾いながら後ろを見るとちゃあんとそこには教室とクラスメートが存在しているんだ。だけど再び僕が前を向くとすぐ後ろで暗黒が口を開けて僕を飲み込もうとしている。

そもそも、時間は存在しないんじゃないかと僕は仮説を立てているんだ。本当は宇宙も世界も存在しない、あるいはもう一つの僕の物語、アナザー・ストーリーがあってもおかしくないし、いや、むしろいくつものパラレルワールドがあるんじゃないか。それが存在しないとどうして言えよう。だけど、こんな話をしても誰も興味を持たないんだ。つくづく不思議だ』

タバコを吸い終わり、僕は机に向かった。僕の背後は常に暗黒が口を開けているのを感じる。そして、時間は完全に停止して、もう一つの世界の僕が物語を上書きしようと企んでいるんだ。

こんなことばかり考えているのは、今日は僕が生理だったからかもしれない。これだけはどうしようもない。

10/29/2023, 11:38:44 AM