『終わりなき旅』
戦場で目覚めて身を起こす。辺りに合戦の気配はすでになく、動いて見えるものは蝿と鴉と戦場漁りに勤しむ罰当たりどもだけだった。もはや物言わぬ見知ったものも見知らぬものも踏み越えて陣のあった場にたどり着くと、かつて仕えた主は首を持ち去られて体だけとなっていた。手を合わせて涙を流し思うだけ留まった後はここにいる意味を見失ってしまい、当てもなくふらふらとその場を離れて山を彷徨った。
どうして俺だけが生き残ってしまうのか。あの戦場で倒れたのは二度目だった。一度は敵方に討たれたとき。二度目は落ち武者狩りに遭ったとき。途中に見つけた沢で身を洗い検めてみると古傷はそのままに二度の致命傷は影も形も見当たらない。手元の刀を首元へやって水を赤く染めてもやがて傷口は塞がった。何の因果か、誰の気まぐれか、死ねないようになってしまった。
死なずとも腹は減る。金を稼ぐために武者から雇いの用心棒へ。賭場荒らしに腹を刺されるが生き残り、気味悪がられ、別の街へ。手に職を付けて町人に馴染み、好いたひともできたが盗賊の押し込みに遭って俺を除いてみな殺されてしまった。
長く座り込んでいたがそうするのにも飽きて立ち上がる。生きるのに疲れることもしばしば。けれど死ねないのなら生きるしかない。死んでからも仏への道が険しく続くと言うが、しぶとく生きている俺の前には如何なる道が続くというのだろうか。そんなことを思ってようやくその場から歩き始めた。
5/31/2024, 3:49:30 AM