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『一輪のコスモス』

このお題を見て、むかし国語の教科書に載っていた話を思い出した。

戦時中、まだ食べ盛り育ち盛りの幼い女の子が覚えた、数少ない言葉のうちのひとつ。

「ひとつだけちょうだい」

物が不足している中で、お腹いっぱい食べさせてあげられないお父さんとお母さんは、その言葉を言われるといつも自分たちのお皿から女の子に食べ物を分けてあげていた。

そんなある日、とうとうお父さんにも召集令状が届き、出征することになった。
見送りに来た列車のホームで、お母さんはなんとかかき集めた米で作ったおにぎりをお父さんに渡す。

するとそれを見た女の子は、いつものように「ひとつだけちょうだい」と言いだした。
ひとつもらって、美味しくてまだ食べたいと「ひとつだけ」「ひとつだけ」と女の子はぐずりだす。

お父さんは、自分の分はいいから全部おやりよとお母さんに言うけれど、実は見送りにくるまでの間に同じようにぐずるたびにおにぎりをあげていたので、もう残りはなかった。

泣き止まない女の子に、お父さんは道端に咲いていた一輪のコスモスを差し出した。

「ひとつだけあげよう。ひとつだけのお花、大事にするんだよ」と言って。
そしてそのままお父さんは出征していった。

そういうお話。それがやけに胸に残って、今でもコスモスを見かけると思い出す。

10/11/2025, 10:20:07 AM