いろ

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【日常】

 朝起きたら真っ先に顔を洗い、歯を磨く。洋服に着替えたら身だしなみを念入りにチェックして、そうして僕は地下室の鍵をひそやかに開くのだ。
 真っ暗な階段を、一段ずつゆっくりと降りていく。暗闇の中でも迷うことなく壁のスイッチを入れれば、橙色の淡い光が天井に灯った。
「おはよう」
 溢れんばかりにベッドを埋め尽くした満開の造花の中、深い眠りについた君へと挨拶を。ピッ、ピッと規則正しく鳴る心電図の音だけが、君が生きていることを僕に教えてくれる。
 この先もずっと、君の目が開くことはないのかもしれない。それでも君の心臓が鼓動を続ける限り、僕は君のために尽くし続けよう。
 冷たい額にそっと口づけを落とし、薄暗い部屋の中で点滴を取り替え始める。それがあまりに歪な僕の日常だった。

6/22/2023, 2:17:28 PM