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 夏の終わりごろ、ベランダに一匹セミが転がっていた。あっと思っていると、どこからともなく鳥が飛んできた。鳥が飛び立った後、透明な羽根が一枚残されていた。

 コンクリートの床の上で、風がかすかに羽根を揺らす。夏の終わりのセミは、どこかはかなげだ。どうして羽根の色が透明なのだろう。季節の移り変わりを知らせるかのような鳴き声も切なく聞こえる。セミの地上での短い命を思った。
 
 そのままぼんやり眺めていたら、シュッとまた鳥が現れた。あっという間にその羽根をくわえていってしまった。


「透明な羽根」

11/9/2025, 8:15:38 AM