渚雅

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大っ嫌いだった。憎んでると言っても過言ではないくらい。ただただ嫌悪していた。そこに一欠片の嘘も誤魔化しもない。本当に疎んでいた。


けれど,それは きっと誰よりも。ほかのどんな人物よりもずっと,心の奥底 一番深く仄暗い感情の在処に居座る存在。

忘れたくても忘れられない。必要不可欠で,この身を形づくる要素。それ無しで語ることが出来ないくらい絡みついて纏わり付いた呪縛。一生解けない鎖。


僕が毒と名付けたそれを あなたは愛と呼んだ。罰と呟けば祝福と囁いた。不幸の種と笑えば春の風だと微笑んだ。

いつもいつも隣にあった。熱を感じるほど傍に。きっとどこまで行っても交わらない。ねじれた関係。永遠に触れられない,同一平面上にすらあれない関係。



……知ってたのに。

終わりが嫌いだった。始まりを恐れた。別れを嫌った。出会いを避けた。手を伸ばせなかった。




「なんでだろう」

零れ落ちた生暖かい何か。揺らぐ視界と淡い色の世界。冷たい空気が喉を塞ぐ。


「好きじゃないのに」

はじめて吐いた嘘は,心無い強がりは 空気を震わせて消えゆく。誰にも拾われずに意味もなく。


「……一緒に,見たかったな」

飾り気のない本音を,叶わない願いを 攫うように薄紅色が吹雪く。責め立てるようにも慰めるようにも思えるそんな風。

一人の幼子は月明かりが射すそのときまでただそこに。




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テーマ : «好きじゃないのに»

3/25/2023, 2:36:22 PM